第5話 決意の日

「ねえ、着替えてから一緒に帰ろうか?」


「うん、いいよ」


 沈みゆく夏の夕陽を受けて、海斗と理亜は家路へと足を運ぶ。

 家の場所を訊くと、お互いに意外と近くのようだ。


「キーパーとの一対一ってね、簡単じゃないんだよ。しかも相手はあの城谷さんなんだから。あれだけ決められるのなら、大したものだよ」


「そうかな。でも確かに、城谷さんは凄い人だね」


 長い手足に咄嗟の判断力に瞬発力、海斗はずっと圧倒されていた。


「ねえ、楽しかった?」


「…まあね。久しぶりにやれたから」


 本成寺等の嫌がらせはあったけれど、彼にとって心地よい時間だった。


「ねえ、明日も来てよ。私は西島君のサッカーを、これからも見ていたい」


「…あのさ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺のサッカーを見ていて面白いの?」


「え……」


 理亜が言葉を詰まらせる。


「あの、うん…私にとってはね…」


「そっか。じゃあ明日もお邪魔してみようかな」


 そんな会話をしながらの帰り道を、二人はあっという間に感じていた。


 翌日の朝の教室、朝練を終えて額が光る千秋が、海斗の元へやって来た。


「昨日頑張ってたじゃん?」


「なんだ、見てたのか?」


「うん、こっちも練習してたから。どう、久々にやってみて?」


「まあ面白いね。だから今日も行ってみようかと思うよ」


「ふふん、じゃあこの私には感謝しなさい。お礼に何か甘いものでも、奢ってくれていいよ」


「ああ分かった。それよりお前も頑張れよ、インターハイの3000メートル走」


「うん、分かってる。折角掴んだチャンスだからね」


 昔から足が速かった千秋は、毎日弛まない努力を重ねて、高一にして全国への切符を手にした。

 時には海斗と一緒に暗い夜道を走って、帰りにコンビニで買い食いをして。

 そんな時間も、千秋を強くした。


 その日もまた次の日も、海斗はグラウンドへ顔を出した。

 サッカーの強豪校での練習に何とかついていって、それが終ったら居残りで城谷とシュート練習をして。

 そして決まって理亜が待っていてくれて、一緒に家に帰る日々が続いた。


「恰好いいよ君。この調子」


 そんな言葉に、海斗は心をくすぐられながら。


 そんなある日に、海斗は監督に呼び出された。


「どうだ西島君、サッカー部に入る気はないか? 歓迎するよ」


 穏やかに顔に皺を作る初老の監督に、海斗は頭を下げた。


「お願いします。俺にまた、サッカーをやらせて下さい」





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