第4話 練習試合

 夏の足音が近づく季節になって、空が蒼くて高い。

 海斗は、サッカー部のメンバーと理亜が集う輪の前にいた。


「今日から練習生として来てもらうことになった西島海斗君だ。よろしくしてやってくれ」


 海斗を紹介したのは、三年生でキャプテンの城谷正孝きやまさたかだ。

 ここでは正ゴールキーパーを務めている。

 海斗が頭を下げると、まばらな拍手とともに、刃物のように鋭い視線が刺さってきた。

 本成寺の他、昔の海斗のことを知る数人からだ。


 他のメンバーも、胡乱な視線を海斗に向ける。

 今は全国高校の予選が始まったばかり、誰もが試合に出たくてピリピリしている。

 そんな中で、どこの馬の骨とも分からない奴が入り込んできたのだ。


 海斗としても全く本位ではない。

 だが千秋が約束を守れと強く迫るので、テストで入ってみようということになったのだ。


「じゃあ二組に分かれて、練習試合でもやるかな」


 いきなりのキャプテンの発言に、海斗は面喰う。

 自主トレはしていたけれど、ずっと一人だったし、試合からも離れている。


(まあ、ここでダメと分かれば、桜木さんも千秋も諦めてくれるだろ)


 そう腹に落としてフィールドに立つと、相手チームのフォワードになった本成寺が、わざと肩を当ててくる。


「何しに来たんだよ。引っ込んでろよお邪魔が」


 敵意をむき出しの本成寺に、海斗は目を合わせられない。


 試合が始まるとみんなが動きだして、ボールの主導権が目ぐるましく変わる。


 海斗も必死に走るけれど、試合勘が無い分遅れてしまって、中々ボールが回ってこない。

 中には意図的に、海斗にボールを回さない者もいる。


 けれど体が温まってくると、段々と足が前に出て、体も軽くなっていく。

 前や横にいる選手にパスをして、また走る。

 その繰り返しだ。


 試合結果は1対1、海斗のチームは、彼からパスを受けた者が決めた点だった。

 

 その日の練習を終えると、海斗の体に、心地よい疲労感が広がった。

 部員が三々五々解散をしていく中で、


「どうだった、西島?」


 城谷の問いに、海斗は笑顔だ。


「面白かったです。全然大したことはできなかったですけど」


「西島、良かったら、一対一でシュート練習をやらないか? 俺がキーパーをやるから、君はシュートを打って来るんだ」


「…お願いします」


 夏の太陽が西から照らす中で、グラウンドには海斗と城谷、そして理亜の三人が残った。


 海斗がドリブルでゴールに近づき、城谷がその前に立ちふさがる。

 狙い澄ましてシュートをしても、城谷の長い手足に阻まれて、ゴールは決まらない。


(やっぱダメだ。俺はシュートが下手糞だ)


 何十本か対戦して、ゴールに入ったのは三割ほどだった。


 練習を終えてへばる海斗を尻目に、城谷は理亜に近寄った。


「なかなか面白い。お前が言った通りだよ」


「でしょう?」


 額の汗を拭いながら不器用に笑う海斗、その姿を見詰める理亜の表情は、優しげで満足そうだった。



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