第6話 再びのベンチ
夏休みも真っ只中のある日、学校の部室にいた海斗のスマホにメッセージが入った。
差出人は千秋だ。
『6位だった。また来年頑張るわ』
『全国で6位だろ、凄いじゃないか。おめでとうって言いたいよ』
凡人が努力しても届かない頂きに立つ者、その気持ちはその本人にしか分からないのかもしれない。
千秋は決して満足していない、海斗にはそう思えた。
海斗が正式に入部した美須山高校サッカー部も、全国高校選手権大会への道程を、順調に勝ち進んでいた。
その間ずっと、本成寺がレギュラーでフォワードを務めていた。
今日もこれから練習がある。
夏の炎天下での練習は、屈強な若者をへろへろにさせる。
「みんな、麦茶があるから!」
理亜の叫び声にみんなが我先にと集まって、乾ききった喉を潤して。
そしてまた、グラウンドへと戻っていく。
その後は、海斗と城谷とのシュート練習、これもずっと続いていた。
「城谷さんよくやるなあ、あんな奴のために」
そんな声も漏れ聞こえてくるけれど、二人はお構いなしで。
そんな景色を、理亜はいつだってじっと見守った。
ある日の部室で、監督から静かな言葉が、部員に伝えられた。
「次の翔英高校戦のベンチ入りメンバーを発表する」
翔英高校は、去年の全国高校に出場していて、ベスト8まで進んだ常勝校だ。
全国に臨むためには避けては通れない、最大の関門だ。
監督の口から一人一人名前が告げられていく。
「フォワード、本成寺、栗林、藤堂、西島」
(…え、何? 俺?)
海斗は驚くと同時に、深い戸惑いを感じざるを得なかった。
「おめでとう西島君、凄いじゃない!」
キラキラと笑顔を輝かせる理亜の横で、海斗の表情は冴えない。
「どうかな。俺でいいのかな。何だか中学の時と似ているんだけど」
苦い記憶が、海斗の脳裏に押し寄せる。
代表決定線でいきなり抜てきされて、結果を残せず、チームメイトを奈落の底に突き落とした、あの記憶だ。
「大丈夫、西島君。あなたは本物よ。努力は嘘をつかないわ。あなたは今だって、誰よりも頑張ってるじゃない」
(どうかな…? できるだけのことはやっているつもりだけれど)
「それに私が付いているわ。応援してる」
「ありがとう、頑張るよ」
海斗が頬を赤らめて応えると、理亜も照れたような笑顔を、彼に返した。
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