第一章 優しい悪魔の誕生
昼休憩のチャイムが鳴り、電話対応をしていた秋人は、話していた相手に、こう言った。
「申し訳ございません。お昼休憩の時間です。お話の続きは、また午後からと言う事で、よろしいでしょうか?」
『はぁ?!何言ってるの!お客の対応より、お昼休憩が大事だと言うの?!』
電話の口調から、おそらく中年の女性であろう客に、秋人は、優しい口調で応える。
「誤解されてるみたいで心外です。私は、お客様の事を思って申しておりますのに。」
『私の為ですって?』
「そうです。お声から、お客様は、大変お美しい方だと感じておりました。お客様……食事というのは、とても大切な事なのですよ。それも、ただ食べれば良いというわけではございません。毎日、規則正しく、決められた時間に食する事が大事なのです。規則正しく食事をすると、健康にも良く、ダイエット効果もございます。私は、お客様の美貌を何時までも、そのままでいて欲しくて、申しておりますのに……。」
『まぁ……。そうだったの?怒鳴ったりして、ごめんなさいね。』
「分かって頂ければ、よろしいのですよ。でも、お客様……。この電話で休憩時間が10分も過ぎてしまいました。この責任は、どう取って頂けるのでしょうか?」
『えっ……?あっ……それじゃ、さっきの新しい化粧品を購入するわ。それで、どうかしら?』
「ありがとうございます。流石は、お客様。お美しい方は、心も美しく澄んでいるのですね。では、詳しいお話は、後程で……。」
静かに受話器を置いた秋人は、フッと口元に笑みを浮かべると、その場を離れ、立ち去って行った。
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