第一章 優しい悪魔の誕生




会社の中にある社員食堂で、秋人が食事をしていると、結城がおすすめランチの塩サバ定食を持って、やってきた。


「あーあ、疲れた……。毎日毎日、クレームばかりでストレス溜まるよ。」


疲れた顔で、椅子に腰掛けた結城に、秋人は、クスクスと笑う。


「そうですか?僕は、楽しいです。」


「売り上げ成績優秀な、お前には分からない苦労さ。南田のばあさんなんか特に、嫌味ダラダラで長電話で……はぁー……。」


南田のばあさんとは、この会社の常連客で、毎日のように、クレームの電話を入れてくる名物おばさんである。

因みに、秋人が先程、対応していたのは、その南田のばあさんである。


「そうですか?南田様には、先程、新作の化粧品をご購入頂きましたけれど。」


「えっ?!あのドケチなばあさんが!?」


「ええっ。それに……南田様は、嫌な人ではありませんよ。」


にっこりと笑って、そう言う秋人を、結城は、驚いた顔で、口をポカンと開け、見つめた。


「お前、やっぱり才能があるんだな。」


「フフフ。才能だなんて……。結城さん、お客様対応の時、面倒臭いなと思っていません?」


「思ってるよ。みんなも、そう思うだろ。」


「だから、駄目なんですよ。」


箸を置き、じっと見つめ返す秋人に、結城は、ドキッとなる。


「褒めればいいのですよ。」


「褒める?例えば、どんな風に?」


「そうですね……。例えば、今日は、お声の調子がよろしいのですね……とか。」


優しい瞳で見つめる秋人に、結城は、頬杖をつく。


「そんなんで上手くいくのか?」


疑いの目で見つめる結城に、秋人は、フッと微笑む。


「褒められて嬉しくない人は、いないでしょ?」


「フーン……そんなもんかね?」


「僕には、南田さんより、結城さんの方が心配です。」


眉を寄せ見つめる秋人に、結城は、眉を上げた。


「俺?」


「はい……。だって、結城さん……この仕事向いてないのではないですか?面倒臭い事は、他人に押し付けて、自分では、何も解決しないんですもの。ほんと……結城さんって……お給料泥棒さんですね。」


そこまで言って、にっこりと笑った秋人に、結城は、唇を尖らせた。


「はっきり言うねー、お前は。」


ブスッとした顔をした結城に、秋人は、あっははと声を上げ笑った。


「でも、正直な話……。真面目に、仕事をして下さいね。でないと……駆除されますよ。」


「駆除?」


「要らない人間は、駆除されるんですよ。……じゃ、僕は、お先に……。」


そう言うと、トレイを持ち、秋人は、立ち上がると、社員食堂を出て行った。

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