素敵なおじさんと僕 番外編
紅夜チャンプル
日向と怜が、イケメン兄弟が経営するカフェに行った話
「イケメン兄弟が経営するお洒落カフェ〜僕達と素敵なひとときを〜セプタンブル」
旅行でも行こうかと、たまたま地域雑誌を購入した
優しい兄の
「美味しそう‥‥しかもアイドルみたいな店員さんだなぁ‥‥
日向の恋人である怜(れい)はだいぶ年上である。男性同士の恋愛に戸惑いはあったものの、今の2人は周りが呆れるほど仲が良い。さらに2人とも甘いものが大好きなので、ここには行ってみたい‥‥
「ただいま」怜が帰ってきた。
「怜さん、お帰りなさい!」
日向がパタパタと走ってくる。今日も疲れが吹っ飛ぶ可愛いさだ‥‥と怜が思う。
「今日は僕が夕食準備したんだよ♪」と言いながら日向は鍋の蓋を開ける。
美味しそうなカレーの匂い。
「ひなといえばカレーだな」と怜に言われる。
最初は慣れなかったカレー作りだったが、今では日向の得意料理となった。(カレーを得意料理と言って良いのかどうかは別として)
「いただきます」と怜が言ってカレーライスを一口食べる。
「怜さん、美味しい? 美味しい?」
「美味いよ」
「やったー! 怜さんに言ってもらえるの一番嬉しいや。プロだもの」
怜は元々バーを経営しておりバーテンダーで夕方に働いていたが、自身の体調を優先するためにランチ営業を行うことになり、今は主に日中に働いている。
「フフ‥‥ひなが頑張ってるのが分かるからな。まぁ無理するんじゃないぞ」
「はーい! あ‥‥そうだ怜さん。今日雑誌買って来たんだけど、このお店ちょっと気になって‥‥」
日向はそう言ってイケメン兄弟のカフェの特集ページを見せた。
「スイーツが美味しそうだな。だが‥‥女性に人気みたいだ。俺みたいなおじさんが行ったらおかしくないか?」と怜。
「そうかな? 前もカフェで一緒にパフェ食べたでしょ? 大丈夫なんじゃない?」
「まぁ‥‥ひなが行きたいなら行くけど」
「じゃあ‥‥週末行く?」
「そうだな‥‥ランチとデザート食べてみるか」
「うん! 楽しみ♪」
※※※
そして週末、怜は朝に自分の店に寄らないといけなくなり、現地集合となった。
兄弟のカフェ「セプタンブル」は‥‥やはり女性ばかりであった。
「どうしよう‥‥ほぼ女の人だ。男女のカップルはいるけど‥‥」
日向はカフェの外から覗きながら怜を待つが、不安そうにしている。
カフェではその日も碧人と健人がお客様に笑顔で対応していた。
「いらっしゃいませ! 本日の気まぐれプチデザートですか? ふふ‥‥お楽しみですよ。兄貴、ランチお願いしまーす」
「はい‥‥少々お待ちくださいね」
少し落ち着いた頃に健人が外から覗いている日向に気づく。
「あれ? 入ってこないのかな‥‥」そう言いながら入り口に向かう。
日向は焦ってその場から去ろうとしたが、怜が来るかもしれないと思い、恥ずかしそうに立っているしかなかった。
「いらっしゃいませ。良かったら中でお待ちいただいても大丈夫ですよ!」
弾けるような笑顔の健人に日向はドキドキしてしまう。アイドルみたい‥‥
「え‥‥えーと‥‥人を待ってて‥‥」
「どうぞ。メニューもご覧になってください」
カッコいいだけじゃなくて‥‥何て優しい店員さんなんだーー! と日向は思いながらメニューを見ていた。
健人が碧人の所に向かう。
「健人、あの子‥‥可愛いからって連れてきたのかい?」と碧人。
「だって外で待たせるの可哀想じゃん。兄貴だって気になってるくせに」と健人。
「確かに‥‥可愛い」
「俺よりも?」
「健人ったら‥‥妬いてるね」
実は碧人と健人は、カフェではイケメン兄弟ということになっているが、家では甘い時間を過ごし、愛し合う仲。
「‥‥というか俺もあの子気になる」と健人。
「‥‥ライバルってわけか」と碧人。
「でも兄貴の包容力には俺はかなわないからね」
「ふふ‥‥で? 誰かを待ってるって?」
「そうみたい、彼女かも」
「それなら無理か」
「兄貴‥‥明らかに落胆してて面白いんだけど」
「こら健人、お客様来てる」
兄弟が何やら喋っている間も日向は、外をちらちら見ながら怜を待っていた。
すると、怜からメールが来た。
「30分ぐらい遅れるのかぁ‥‥お腹空いた」
日向がそう言うのを聞き逃さなかった健人。
「お客様‥‥よろしければ先にご案内しましょうか?」と日向を席まで案内してくれた。
「ありがとうございます‥‥」
「ちょっと待っててくださいね」と健人が言い、キッチンの方へ向かう。
「おい、何やってる健人」
「お連れの方が30分遅れるそうだ。お腹を空かせているからサービス♪ 俺のセレクトしたプチチーズケーキを‥‥」
「何? お前本気? それなら僕だって‥‥」
※※※
お昼の混雑のピークも過ぎた中、日向はお腹を空かせて怜を待っていた。
「怜さん‥‥大丈夫かな‥‥」
するとそこに健人が現れた。
「お客様、こちらサービスです。今キャンペーン中でしてこちらのメッセージカード付きとなっております。よろしければ‥‥」
そう言ってプチチーズケーキとカードを渡す。
「あ‥‥ありがとうございます」
さらに後ろから碧人も言う。
「僕からもサービスの‥‥抹茶ラテでございます」
「ま‥‥抹茶‥‥!」と日向。
日向は抹茶好きであり一番好きなのは怜の作る抹茶オレであるが、この抹茶ラテも美味しそう‥‥
「すごい‥‥僕、抹茶が好きなんです! 嬉しいな」
「そうでしたか。では僕からもメッセージカードを‥‥」と碧人もカードを渡す。
「ありがとうございます‥‥! 僕、雑誌で見たんだけど、本当に2人とも格好いいし、こんなサービスついてるなんて‥‥ラッキーだな♪」
日向が笑顔になった。
『どうしよう、ほんと可愛い、兄貴』
『健人、お前彼をどうする気だ?』
『兄貴だって‥‥』
目で会話する兄弟。日向はチーズケーキを食べて満足そうである。
「美味しいです! この抹茶ラテも甘くて美味しい」
「ありがとうございます、お客様」
そしてようやく怜がカフェに入って来た。
「いらっしゃいませ」と健人。
「ああ‥‥先に入ってるって言われて‥‥」
そして手を振っている日向に気づいた怜である。
「怜さん待ちくたびれた‥‥」
「ごめんな、ひな。ちょっと長引いてしまって‥‥先に食べてたのか?」
「うん、注文していないんだけどキャンペーンでサービスだって言われて‥‥」
封をされたメッセージカードも見せる日向。
「へぇ‥‥そんなサービスあるのか」
怜の様子を見た健人。
「兄貴。親が来たっぽい」
「それにしては若くないか?」
「いや、あのぐらいの若い親もいるし‥‥珍しいな。母と娘っていうのは多いけど父と息子って」
「まぁ、いいじゃないか。彼にカードは渡したんだろう? 健人」
「兄貴こそ。けどあの子が抹茶好きだなんて‥‥兄貴の勘はすごいや」
「ふふ‥‥」
健人が注文を取りに行く。
「兄弟おすすめサンドイッチセットのデザート付きですね。デザートがティラミスとシフォンケーキですね。少々お待ちくださいませ」
※※※
注文を待つ間、怜が言う。
「特にキャンペーンの話なかったぞ? 俺には何もなしか」
「そうだね‥‥周りにもカードもらってる人、見ないし。もしかして100人目の客だったから、みたいなものかな?」と日向。
「ひな‥‥そのカード見たか?」
「まだだけど‥‥怜さんも一緒に見よっか♪」
カードの中身は‥‥
『今日は君に会えて嬉しいよ! ゆっくりお過ごしください。健人』
『良かったらまた会えると嬉しいな。素敵なひとときを。碧人』
「うわぁ‥‥噂どおりアイドルみたいな人達だね、怜さん」
日向が頬をピンクに染めて照れている。
「へぇ‥‥それで、俺みたいなおじさんにはなしか」
「怜さん、1枚あげようか?」
「いらないって‥‥フフ」
「あ、ほら見て! SNSでもカードをもらった人がアップしてるよ」
日向のスマホを見ると確かに兄弟からのメッセージカードがアップされているが‥‥どれもクリスマスやバレンタインなどのイベント関連である。少なくとも「君に会えて嬉しい」とか「また会えると嬉しい」なんて‥‥ない。しかもイベントでもらえるカードは兄弟どちらかのカードでお一人様1枚。日向は2枚もらっている。
怜はモヤモヤしていたが、サンドイッチセットが運ばれて来た。
「お待たせいたしました!」と健人。日向の方をちらっと見てにっこり笑う。
かっこいい‥‥と日向はつい見惚れてしまったが、怜もいるので気づかれないようにサンドイッチを食べようとする。
キッチンにて。
「おい、健人。お前アピールがすごいんだけど」
「兄貴には渡さないもんね。俺のお気に入り♪」
「それはどうかな‥‥?」と碧人。
日向はサンドイッチを食べながら話す。
「美味しいね♪ あのさぁ怜さん‥‥やっぱりここ女性ばかりだったね。居づらかった?」
「まぁ最初は驚いたけど、このサンドイッチは美味いし、店としてはいいんじゃないか? ただ‥‥そのカードとさっきから店員のひなに対する態度が気になる」
「あ‥‥僕‥‥ちょっとドキドキしてしまいました」
「だろうな。分かりやすいんだよ、ひなは」
怜に優しくデコピンされる日向。
「ハハ‥‥怜さんにはバレてたか‥‥」
「みんなに愛想振りまくのも大変だな、アイドルってのは」
「モテモテなんだろうなぁ」
ひな‥‥お前も男女問わずモテるから気をつけてくれ、と思った怜であった。
※※※
碧人がデザートと珈琲を持って来た。
「こちら、ティラミスとシフォンケーキでございます。本日の珈琲もどうぞ」
そう言って日向と怜の2人に優しい笑顔を見せる。
「‥‥怜さん見た? 今のスマイル!」と日向が小声で言う。
「ああ、俺みたいなのにもスマイルくれるとは‥‥いい店員だな」
「怜さんが‥‥格好よかったからじゃない?」
「まさか」
少し嫉妬しているひなも可愛いのだが。
キッチンに戻った碧人。
「ああいうのは保護者にも笑顔を見せないとね」
「さすが兄貴。俺、あの子しか見えてなかった」
「保護者としては健人よりも僕の方が安心だろう?」
「兄貴‥‥本気になってるし。俺がいるのに」
「お前こそ気になってるって言ってただろ」
「まぁこれで‥‥次回も来てくれて常連にでもなってくれたら‥‥どうする?」
「どうしちゃおうかな‥‥」
「兄貴が楽しそうだ‥‥俺という弟がいるのにっ」
「こらこら」
日向は珈琲を飲んでふぅと落ち着く。
「怜さんこの珈琲美味しい」
「そうだな、けっこうこだわってるな」
「このお店、気に入っちゃった」
「え? まぁお店はいいけれど‥‥」
あの店員たちがひなのこと‥‥どう思っているのか‥‥?
「俺は‥‥ひなにあんなカード渡していることが嫌だな‥‥」
「怜さん‥‥」
「あの兄弟が俺にそのカード渡していたらどう思う? ひな‥‥」
『会えて嬉しい』『また会いたい』と怜さんに言うアイドルたち‥‥そう思った日向はすぐに怜に言った。
「そんなの‥‥嫌に決まってる‥‥怜さんは僕と一緒にいるんだもの‥‥」日向は大きな瞳に涙を浮かべた。
「ひな‥‥泣かなくても‥‥」
「ごめんなさい‥‥僕‥‥怜さんが好きなのに」
「まぁあそこまでアイドルのような店員なら惹かれるのはわかるけど‥‥カードの内容がな」
「そうだよね‥‥あれを全員に配ってたら本気にしちゃう子だっているのに」
「それだけひなのことが‥‥気になっていたんじゃないか? あの兄弟」
怜が日向の涙を拭い、頭を優しく撫でている。
その様子を見た健人。
「兄貴‥‥泣いてるぞあの子、父親に慰められている」
「何かあったのかな? せっかくなら僕がそばにいてあげたいものだが」
「こら兄貴、そうなったら俺が泣くわ」
「お前のことも僕が面倒見てあげるから‥‥」
「はぁ‥‥すぐそう言って誤魔化す。あ、あの親子、出てくるぞ」
※※※
日向は怜と腕を組んでいる。それを見て兄弟は驚く。
今時、こんな仲良い父と息子いる‥‥?
先ほど少し涙を流した日向の瞳が潤んでいて、その瞳は怜の方をじっと見つめている。
甘えん坊な息子さん‥‥? でも可愛い‥‥と兄弟は思う。
怜が会計をした後、日向は兄弟からもらったカードを出す。
「今日は僕に色々とサービスしていただきありがとうございました‥‥すみませんが‥‥このカードは‥‥お返しします‥‥」
「ひな? 本当に返すのか? せっかく書いてくれたんだから‥‥(俺は嫌だが)」と怜。
飲食店を経営する側の気持ちとして、とりあえず受け取っておいた方がいいような気がする怜である。
「だって‥‥僕は怜さん以外の人にこんなのもらって、怜さんが辛くなっちゃうのが嫌なんだよ‥‥」
「ひな、俺も辛いけどさ。記念に受け取っておいても‥‥」
「だって怜さん嫉妬するでしょ? さっきだってさ‥‥」
「え? あ‥‥それは‥‥」
「僕だって最初は嬉しかったけど‥‥怜さんと一緒にこのカードを見たら、恥ずかしくなってきちゃった」
「ひな‥‥」
「今回は僕だったから、まぁいいけど‥‥怜さんにはあんなカード、渡さないでもらえますか‥‥?」
「いや、俺はそういうカードもらえないって」
「怜さんは僕より格好いいんだから、もらっちゃうかもしれないでしょ?」
「え? いや‥‥お前の方が可愛いんだから」
「怜さん‥‥」
「ひな‥‥」
兄弟は日向と怜を見て、気づき始めた。
この2人‥‥そういう関係だったのか?
すぐに碧人が言う。
「お客様、申し訳ございませんでした。週末ですし、あまりお待たせするのもどうかと思いまして、このようなサービスをさせていただきました。ですが、お2人のことを考えずに勝手なことをしてしまい反省しております」
「私からも‥‥申し訳ございませんでした」と健人も言う。
「いや‥‥俺達も親子に間違われることがあるもので。こういうカフェに入るのもなかなか勇気がいるんだが‥‥2人とも甘いものが好きなんだよ。サンドイッチもデザートも美味しかったです」と怜。
「うん! 美味しかったです!」と日向。
「ありがとうございます、またお越しくださいませ」と健人。
「素敵な一日を」と碧人。
※※※
日向と怜はカフェを出た。
そして怜が強く日向を抱き寄せて‥‥濃厚なキスをしていた。
「れ‥‥怜さん‥‥こんなところで‥‥?」
日向は顔を赤らめて怜にしがみつく。
「ちょっと‥‥見せつけてやりたかっただけだ」
怜はそう言って店の中にいる兄弟の方を見てニヤっと笑い、日向と去って行った。
日向と怜のキスシーンを見た兄弟。
「‥‥健人、完敗だな」
「‥‥おう、兄貴。まさかカップルだったとは」
「これからは気をつけなければ」
「兄貴‥‥いつもそう言ってるけどさ、まぁまぁカード渡してない?」
「健人だって」
「俺らみたいなものか、あのお2人さんも」
「僕たちの仲にはかなわないさ‥‥フフ」
家に帰った日向と怜。
「あのカフェ、美味しかったけど‥‥1人で行くなよ、ひな」
「うん‥‥怜さんも1人で行っちゃ嫌だから」
「こんなおじさん1人で行ったら浮くだろう?」
「ハハ‥‥」
「おい笑ったな? ひな」
日向が怜に抱きついた。
「怜さん‥‥さっきのキス良かった‥‥もう一回して?」
「え‥‥」
可愛い日向におねだりされると断れない。いや、断るなんて選択肢はない。
「ひな‥‥」
「怜さん‥‥」
甘くとろけるようなキスをされ、日向は怜の背中に手を回す。
やっぱり‥‥怜さんが好き‥‥
ひな‥‥好きだよ‥‥
終わり
素敵なおじさんと僕 番外編 紅夜チャンプル @koya_champuru
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