第15話 お兄ちゃんは規格外


「深層に潜ります」



 マサトの発言にコメント欄がざわめく。



 ”深層!?”


 ”無謀すぎる。深層なんて今まで誰も潜ったことないんだぞ”


 ”にわか乙。他のダンジョンは年に一人か二人は潜ってる”


 ”でもそれって、事務所や企業のサポートがあって成り立つ話でしょ”


 ”深層に潜るには治安局の許可がないと。無断で入ったら罰則を受けるぞ”



「ですので今日は深層の入り口を見つけます。あとの調査は治安局にお任せしようかと」



 ”簡単に言ってくれる。池袋ダンジョンが発生してから半世紀。今まで誰も入り口を発見できてないんだぞ”



批判的なコメントに受けてミコトがフォローを入れる。



「――だからこそ、チャレンジのし甲斐があるでしょ? 入り口を見つけたら、お兄ちゃんの名前がダンジョン探索史に刻まれるよ」



『いつ深層潜るの? 今でしょ』と言い出したのはミコトだ。


 伝説を打ち立てれば一過性いっかせいのブームで終わらない。

 企業や事務所に頼らずとも、マサトの名前が永遠に語り継がれる。

 あとは黙っていても一生左うちわ。死ぬまで霊力が配給されるだろう。



 ”深層チャレンジか。マサトなら本当に見つけられそうだな”


 ”普通は止められるけどマサトはフリーだからな。事務所の縛りもない”


 ”盲点でしたわ。フリーならではの発想です……”


 ”途中でモンスターにやられて乙らなければいいけど”


 ”スキにやらせればいいんじゃね? 死んでも入り口に戻るだけだ”


 ”ていうか死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね”


【スパチャ ¥4,545】

 ”死亡配信期待してまーすwww”



「応援ありがとうございます。さっそくチャレンジ開始しますね」



 またコメントが荒れ始めた。一部の人間に恨みを買っているらしい。

 マサトは笑顔で荒らしをスルーして、地面の上に8個の石を円形に設置した。




護法八方天ごほうはっぽうてんよ。方位神ほういしんよ。我に凶門きょうもんを示したまえ」



 マサトが印を結び霊力を込める。

 すると北東の方角に設置した石がカタカタと動いた。



丑寅うしとらの方角か。ミコト、マップ上には何がある?」


「――鎮守ちんじゅの森のアンノウンエリアだね。初めてネクロオーガが目撃されたのもその辺り」


「まあそうなるよね」



 これまで誰も深層の入り口を見つけていないのだ。

 そうなると調査が滞っている未開のアンノウンエリアが怪しい。




 ”勝手に石が動いたけど何をしたんだ?”



「ダンジョンは下層へ潜るほどに魔力が増します。ですから、強い魔力が漏れ出している魔力溜まりを探り出したんです」


「――強い魔力が漏れて溜まってるところが深層の入り口ってわけだね」



 使ったのは方位占術の一種、家相や旅の吉凶を占うのに使用する陰陽術だ。

 今回はその応用で、魔力が放つ邪気や陰気などの”悪い気配”を探知して方角を割り出した。



「丑寅は鬼門きもんとも呼ばれている大凶を示す方角。普通は避けるべきなんですが……」



 ”大丈夫なの?”



「行ってみないとわからないですね。なんせアンノウンエリアなので。というわけで早速行ってみましょう」




 マサトはのほほんと答えると、印を結んで【風天ふうてんヴァーユ】の加護をその身に宿した。




「オン・ヴァーユニ・ソワカ」




 マサトが真言を唱えるとその体がふわりと浮いた。

 そのまま超高速で森の中を飛翔する。

 ツバメのようにひらりひらりと身を翻し、突き出た枝を回避する。



 ”きゃあ!? なになに!? マサトくんが超スピードで移動してるんだけど!?”


 ”スポーツカー並みの速度じゃん!”


 ”ドローンの全速でも追いつくのがやっとだ!”


 ”うわあぶなっ! 木の間をギリギリですり抜けてる!”


 ”神回避の連続! 超エキサイティング!”


 ”この映像だけでも見に来た甲斐があったぜ!”



「そろそろアンノウンエリアに入りますね~」



 ”もう着くの!?”


 ”ユニコーンよりはやーーい!”


 ”どうして高速移動しながら平然と会話ができるんだ”


 ”さも当然のように複数属性の魔法スキルを使ってる件について”


 ”規格外すぎる……。マサト、おそろしい子……!”




「おっと。すんなり通してはくれないか」



 ”急に止まってどうしたの?”




「お客さんです」




 ズシン、ズシン……。




 ”なにこの音?”


 ”昨日も同じ足音を聞いたぞ。まさか……”


 ”そのまさかだ! レッドオーガの群れに囲まれてる……!”



 木立の間からレッドオーガが姿を現した。その数は全部で10体。

 他にもひと回り小柄なグリーンオーガの群れがマサトへ迫っていた。







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※作者コメントです

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 ここまでお読みくださりありがとうございます!

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(※平日8時。土日8時、12時更新の予定です)

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