第12話 転校生はアイドル!?


 マサトが教室に入った途端、クラスメイトに囲まれてしまった。

 郡山先輩の次はクラスメイトを相手にしないといけないのか!?

 マサトが身構えていると……。



「昨日の配信見たぞ! 葛乃葉くずのは、おまえすごかったんだな!」



 クラスメイトは笑顔を浮かべ、マサトの肩をポンポンと叩いてきた。



「年中妖怪知識を披露してる痛い厨二病かと思ってたけど、マジもんだったとは」


「底辺とか笑ってすまん! この調子なら事務所から声かけられるんじゃね?」


「退魔師に興味出てきたわ。今度いろいろと教えてくれよな!」


「葛乃葉くん。シルヴィアちゃんと知り合いなんだよね!」


「二人は付き合ってるの? いつ入籍?」


「は? マサトくんはあたしと付き合うんだけど。いいよね? 彼女いないんでしょ?」



 ヒーローに憧れる少年のように目をキラキラと輝かせる男児生徒と、ラブレターを手にグイグイと迫ってくる女子生徒たち。



「ま、待って……っ! 順番に答えるから……!」



 怒濤の質問攻めにマサトは面を喰らってしまう。

 退魔師に関する質問はきちんと答え、彼女を作る予定はないと正直に答えた。

 あまりの誠実さにクラスメイトは涙して拍手喝采。

 教室にいたJKが『聖人マサト』というおかしなあだ名をつけた。



「お~いおまえら、いい加減席につけ~」



 担任教師が教室に入ってきて騒ぎが収まる。



「はぁ……助かった」



 マサトが安堵のため息をついていると……。



「今日はおまえらに転校生を紹介する。入ってきなさい」


「かしこまりました」



 ガラリ、とドアを開いて教室に入ってくる金髪の少女。



「おお……めっちゃ美少女じゃん……」


「え……? あの子ってまさか……!」



 あまりの美貌に男子生徒が色めき立ち、女子は驚愕の声を上げた。

 それもそのはずだ。教室に入ってきたのは……。



「はじめまして。山田・シルヴィア・花子ですわ」



 マサトが下層で助けた女騎士、氷の剣姫けんきシルヴィアだったからだ。



「お会いしたかったですわ。マサトさま♪」



 にこりと微笑んで、マサトに熱い視線を送るシルヴィア。

 次の瞬間、マサトに質問の矢が飛んだのは言うまでもない……。




 ***




「はぁ……。やっと静かになった……」



 昼休み。

 マサトは人気のない校舎裏でベンチに座り、いなり寿司を食べていた。

 いなり寿司はマサトの好物で、田舎にいた頃に母がよく作ってくれたものだ。



「このようなところにいましたか」


「うわっ!?」



 不意に声をかけられ、危うくいなり寿司を落としそうになる。

 マサトが振り返ると金髪の少女が立っていた。名前は……。



「山田花子さん」


「その名で呼ばないでくださる?」


「でも、本名でしょ?」


「イギリス人と日本人のハーフですから。ですが、ミドルネームの方が通りがよいので」


「氷の剣姫シルヴィア……」


「ご存じいただけてるようで何よりです」



 シルヴィアはフフンと鼻を鳴らして、長くて綺麗な金髪をふわりと揺らす。

 立ち振る舞いはさすが女騎士といったところで、所作に上品さが溢れている。



(第一印象が水着だったから、制服をきちんと着込んでると違和感があるな……)



「ふふっ。ワタクシの美貌に見蕩れちゃいました?」


「あっ! ご、ごめん」


 シルヴィアに微笑みかけられて、マサトは慌てて視線を逸らした。

 彼女を作らない宣言はしたが、マサトも思春期の男の子だ。

 モデルのような美貌をもつ美少女に微笑みかけられたら、ドキドキもする。



「シルヴィアさんはどうしてこんな場所に?」


「マサトさまを探しておりましたの。教室では騒がしくてまともにお話できませんから。マサトさまこそ、どうして校舎裏に……」



 と、何故かそこでシルヴィアは頬を赤く染めた。



「はっ!? まさかワタクシと二人きりになるため人気のないところへ!?」


「発想が飛躍しすぎだよ。騒がしいところは苦手でね」


「ソロで探索なさっているのも人と群れるのを嫌って? 孤高のヒーローというわけですね」


「それはまあ……。あはは…………」



 マサトは曖昧に笑ってごまかす。

 マサトがソロで探索を行っているのは人見知りのコミュ障だからだ。



「僕もシルヴィアさんに訊きたいことがあったんだ」


「なんでしょう? スリーサイズと体重は事務所NGですわよ」


「そういうんじゃなくて。ウチの学校に転校してきたのは偶然じゃないよね。タイミングが良すぎる」


「はい。事務所に無理を言って転校手続きをしました」


「理由は……」


「そんなの決まってますわ! マサトさまにお会いするためです!」


「えぇ…………」



 キラキラと目を輝かせてマサトに迫るシルヴィア。

 これにはマサトも一歩引いてしまう。



「こほんっ。マサトさまは騒がしいのが苦手でしたわね」



 空気を察したのか、シルヴィアは居住まいを正してベンチに座った。



「隣に座っても?」


「質問する前に座ってるじゃないか。お好きにどうぞ」


「ふふっ。ではお言葉に甘えまして」



 シルヴィアはニコリと微笑むと、ズイズイっとマサトの隣に詰め寄る。

 結局、二人の距離は肌が触れあうくらいに近づいてしまった。



「ワタクシ、欲しいモノは実力で手に入れる主義ですの。こうして転校してきたのも、マサトさまとお近づきになるため」


「お近づきって……」


「そのままの意味です。アナタにひと目惚れしました!」


「ええええぇぇぇぇっ!?」




 シルヴィアはさらにグイっとマサトに近づくと、一枚の書類を突きつけた。




「葛乃葉マサトさま。アナタをD-Liveにスカウトしますわ!」




 ***



 その日の夕方……。



「というわけで事務所にお連れしました」


「わぁーーー! すごいねお兄ちゃん! ホンモノのD-Liveだよ!」


「どうしてこうなった……」



 マサトはミコトと共に、D-Liveの事務所を訪れていた。

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