第10話 ファンクラブが作られる
マサトが学校へ向かうと、道行く女子生徒から黄色い悲鳴があがった。
まさかの事態にマサトは隣を歩くミコトに慌てて声をかけた。
「どうしてこんなに注目されてるの?」
「お兄ちゃんはいま時の人なの。男性アイドルばりに人気が出て……ほら、横断幕までかかってる」
「うわぁ本当だ。『マサト☆LOVE』って書いてある……」
「きゃーーー! マサトくんがこっちを向いたわ!」
マサトが横断幕を掲げ持つ女子に視線を向けると、そこでまた悲鳴があがった。
曖昧な笑みを浮かべて手を振ると、女子の一人が卒倒した。
「一晩でここまで風向きが変わるなんて……」
「怖くなった? 人に注目されたくて配信やってたんじゃないの?」
「リアルだと視線が怖いというか……。僕、人にジロジロ見られるの苦手で」
マサトはミコトの背中に隠れながら頭を抑える。
幼い頃、キツネ耳が生えていたせいで奇異の目で見られて苛められていたのだ。
「お兄ちゃんはネットでチヤホヤされたいタイプかぁ」
「ダンジョン潜るときはソロだからね。音声コメントなら怖くない」
「そういう意味では配信者適性あるかもね。リアルでのオフ会は避けた方が良さそう。メモメモ」
「何をスマホでメモってるの?」
「その様子だと騒ぎを収めるのは無理でしょ? だから別の方法で沈静化を図ろうと思って」
ミコトはニヤリと笑うと、ズビシとマサトの顔を指差した。
「せっかくチャンスが巡ってきたんだもん。アタシがお兄ちゃんをプロデュースするよ!」
「プロデュースって。いったい何をするつもりなんだ……?」
「ふふふ。それはまだ秘密~」
ミコトは意味深な笑みを浮かべる。するとそこに……。
「おいおいおい。そこにいるのは今をときめくマサトくんじゃねぇか」
頭にそり込みが入った大柄の男性生徒が声をかけてきた。
「お兄ちゃんの知り合い?」
「3年の先輩だよ。名前は……ゴリ山でしたっけ?」
「
ゴリ山こと郡山は、顔を真っ赤にして激怒する。
それこそ怒ったゴリラみたいだった。
「ゴリ山……じゃなかった。郡山先輩はダンジョン配信者でもあるんだよ」
郡山はガタイの良さを生かして前衛職としてダンジョンを潜っている。
だが、良い噂は聞かない。
人に迷惑をかけるような配信ばかりして、治安局に目を付けられている。
反社との繋がりも噂されており、教師ですら手を出せずに困っているらしい。
「マサトにダンジョンの潜り方を教えてやったのは先輩のオレ様だ。そうだよな?」
「いいえ。ミコトに基礎を教わりながら独学で始めましたけど……」
「おいおい、もう忘れちまったのか? あんなに優しくしてやったのによ」
「優しくされた覚えもないんですけど……」
覚えているのは『ザコザコ底辺配信者』呼ばわりされたことだ。
同じ学校に通う先輩配信者として、郡山は何度もマサトに絡んできた。
「遅刻しちゃうんで失礼しますね」
野犬と同じだ。
絡まれたときは目を合わさずにそそくさと退散するに限る。
いつもなら「臆病者」と小馬鹿にされて終わるのだが……。
「待てよ」
今日に限って郡山はマサトにしつこく絡んできた。
行く手を遮るように両手を広げて邪魔をする。
「ニュース見たぜ。ずいぶんと羽振りがいいみたいじゃねぇか。スパチャで儲けてんだろ」
「それがまだ収益化が通ってなくて収入ないんですよ」
「嘘つけぇ! 出せないってんなら痛い目を見てもらうぜ」
「えぇ…………」
本当に金欠なのだが、郡山は聞く耳をもたない。
マサトのポケットをまさぐろうと、お尻に手を伸ばすと……。
「この痴漢! お兄ちゃんのプリケツに手を出すな!」
ミコトが吠えて郡山に噛みついた(比喩表現)。
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