第3話 昔話

 俺の名前は黒柳。元はスパイの男だ。

 本名は自分でもわからない。この名前は自分がスパイだった頃のコードネームだ。

 私は大日神国に生まれた。先に言うと大日神国は戦争に負ける。というか戦勝国は無い。全ての国が負けている。だから今のアトランティス大陸があるんだ。

 まぁこんなみんな興味のない話なんかしてても無駄だ。私がスパイになった経緯をさっそく話そう。


 △△△


 工作員というのは簡単に言うとスパイだ。私はこの勝本に拾われ、スパイの道を辿ることになった。望んではないが拒否するわけでもない。

 私はこの学校に入り、最初は普通に育てられた。語学を学び、普通に遊んで過ごした。今思えばあの遊びは普通じゃなかったかもしれないが。

 私が四歳になり、文字が殆ど理解できるようになった時、私はここがスパイ教育学校だと知った。それから本格的に訓練が始まった。私がスパイになるための。

 私は恐怖などなかった。なんなら楽しみだった。

 まず私は語学学習を重点的にさせられた。これは若ければ若いほど早く覚えれる。これは私にとって全然苦じゃなかった。もともとこういうのが得意な体質らしい。

 私が語学学習を始めて三、四年程度たった時、私は様々な言語がつかえるようになった。たった三、四年で。

 まるで勝本は私が普通の人間とは違うと見抜いていたようだ。私はスパイとしての能力が異様に高かった。普通の人間ならあれほどの言語を覚えるのに最低でも十年は掛かるだろう。

 教官たちは私の事を「将来最強になる」と言っていた。まぁ実際そうなるのだがな。

 そしてついでとしては何だが2048年、戦争が激化し始め、第三次世界大戦が始まった。世界最悪の戦争だ。20年間というとてつもなく長い戦争で最終的に核戦争に発展した。まぁだから今のアトランティス大陸があるのだがな。

 ちなみにこの戦争の始まりにはあまり大日神国は被害を受けなかった。近くに敵国が沢山あるはずなのにな。

 ま、その詳しい話は今度にやるとして。

 私が八歳になった頃から戦闘技術や潜伏技術などの工作員として必要なスキルをとにかく叩き込まれた。

 この訓練はとてもキツかった。私が十三歳になるまでは。

 私が十三歳になった頃、私はこれまで教えてくれていた教官よりも強くなった。もう教官との訓練は無意味になった。

 私が十五歳になる頃には「もう戦場に出していいのでは?」と言われるようになった。

 まぁなんやかんやあって十六歳の頃、俺を拾ってくれた男、日向勝本と再会した。見た目は昔と随分変わっており、まさにイケメンという者でビッシリとしたスーツを着ていた。そして金髪だった。

 勝本も私と同じようにスパイだった。

 私は勝本が誰か全くわからなかった。しかし何か魅かれるようなものがあった。

 私は彼とすぐに打ち解けた。私を助けてくれた事などで会話は弾んだ。

 で、何故勝本と再会したかだ。

 私と勝負をしてほしいとの事だった。私は正直勝てるだろうと油断していた。

 結論から言う。ボコされた。彼の振るうナイフは非殺傷性だとしてもとてつもないスピードで振るわれ、判断する余裕すらくれず、感覚で避けた。

 しかし感覚だけで勝てる訳なく、一瞬でボコされた。

 私は驚いた。教官を、私を優に超える実力者だと知った。それと同時にこの世には勝本を超える実力者も居るのだと知った。

 私はこれまで以上に訓練に励んだ。訓練して、訓練して、時に勝本と戦ってを繰り返した。

 私は着実に強くなっていった。

 しかし私が十八歳になった時、勝本が突然顔を出さなくなった。

 教官に聞くと「彼は恐らく戦場に行ったのだろう。帰ってくる保証はない」と言われた。

 私はそれでも勝本に追いつくために日々訓練に励んだ。

 そして私が十九歳になった頃、私は大日神国最強のスパイと言われた。

 その理由は後にわかる。

 私が何処の国へと行くのか、それを決めていた時に言われた。

 日向勝本が死んだ。

 私はとにかく悲しんだ。関係は短くとも何故かとても悲しかった。

 そして私は勝本の代わりとなるために「ムガロダ連邦」に行くことになった。



 これが私がスパイとして活動するまでの話だ。この訓練の中にも数々のイベントがあったがそれはすべて飛ばす。

 え?何?ジャックザリッパーの話を聞きたい?

 ……分った………じゃあ話そう。ジャックザリッパーに出会った経緯を…



 2078年、20年という長く苦しい戦争が終わってから十年の月日が経ち、アトランティス大陸がかなり発展してきた頃だ。東地区を観光している時、俺は路地で少女に出会った。ここではもうジャックと呼ぼう。

 ジャックはとても綺麗とは言えない服装をしており、赤い汚れと茶色い汚れに塗れていた。そして赤色に染まった大きなナイフを手に持っており、死体の脇に立っていた。ナイフが大きいのはジャックが小さいせいかもしれない。

 おそらくだがジャックは死体から金品を取っていた。

 俺はジャックと昔捨てられていた自分の姿を照らし合わせた。全く違うが違わない姿を照らし合わせた。

 俺は勝本の気持ちを理解した。私はこの子を救おうと思った。

 しかしジャックの方は違った。

 赤い目をこちらに向けながら黙り込んでいた。

 そしてジャックは私に向かってナイフを振るった。私はその攻撃を避け、ジャックの首に手刀を入れようとした。

 しかしその攻撃はジャックにしゃがまれて避けられた。

 俺は驚いた。何故ならこんな幼女に私の攻撃が避けられたからだ。

 ジャックはその後、腕を振り上げて私をナイフで切り裂こうとした。

 俺はジャックの振り上げた腕を掴んだ。

 するとジャックは大暴れ、ナイフが使えず、拘束されたジャックは私の体に弱い蹴りを何発もいれた。

 俺はとりあえず普段は絶対に使わないクロロホルムを染み込ませた布を取り出し、ジャックの口と鼻に当てた。

 普通は気絶なんてしない物だ。しかしジャックはこれで気絶した。

 俺はとりあえずジャックを家に連れて帰った。傍から見ればただの誘拐犯だが。

 私の家はアトランティス大陸の西地区にある。中華漂う場所だ。かなり遠かったが私には問題なかった。

 ジャックはかなり長い間気絶……というか寝ていた。

 ジャックが寝ている時に一匹の黒猫が自分の家に入って来た。まぁ広い石畳の中庭があるので猫が入り込むのはよくある事だった。

 しかしその猫は他とは違い、ジャックの事をずっと気にかけていた。

 ネコにどうしたのかと聞こうと思い、ネコに対して俺は話しかけた。何故喋るという判断をしたのかは分からない。

「おい、そんなに其奴を気に掛けてどうした?腹でも減ってるのか?」

「ニャー(うるせぇ黙れ誘拐犯が)」

 私は驚いた。

「………え?」

「ニャー(俺の親友を…命の恩人を誘拐しやがって)」

「まて、何故言葉が話せる?何故言葉を理解できる?」

「ニャー?(ん?お前も言葉が理解できる人間か?)」

「………どうやらそうみたいだが……いや、もう考えるのはやめよう」

「ニャー…シャー!!!(言葉が分かるのならばもっと罵倒してやる…このゴミクズ変態糞野郎の誘拐犯が!!!)」

「待て、言い過ぎ言い過ぎ」

 俺はこの猫が様々な事情を知っていると見た。

「お前、其奴と知り合いか何かか?」

「ニャー。ニャーオ(あぁ、知り合いってレベルじゃねぇ、大親友で命の恩人だ。一応コイツも俺の言葉が理解できてるようだがまず言葉が所々理解できていない。まともな教育も受けなかったんだろう」

「そうなのか………まぁ此奴は俺が育てる。というか此奴には俺の後を継ぐ者になって欲しい」

「ニャー(それは無理だな、コイツは殺人鬼だ。お前とは違う)」

「…殺人鬼……まぁ俺と殆ど変わらない。俺が其奴を殺人鬼として上手くいくよう教育させる」

「……ニャー(……変わった奴だな)」

「よく言われる」

 そんな会話をしているとジャックが目を覚ました。

「…ん……」

「ニャー!!(ジャック!やっと起きたか!!)」

「んー…ここ……どこ………?」

「ここは俺の家だ。今日からここに住んでもらう」

「ニャー(お前は突然すぎるんだよ)」

「えーっと………ん?あれ?あなたはわたしを……ゆうかいしていったひと?」

「………否定はできん」

「あれ?なんでわたしここにいるの?わたしのふくは?わたしのないふは?」

「落ち着け、すべて別の所にある。しかもあんな汚い服を着てもらっても困る。しばらくはその服を着て過ごせ」

「ニャー(ジャック、いざとなったら奴に切りかかれ)」

「あ、ふたばもいるじゃん」

 この猫は後にリッパーという名前になるが今はふたばと言われていた。

「ニャー(お前の匂いを辿って来たんだ)」

「へぇ、そうだったんだ。じゃぁおやすみ」

 ジャックはノソノソと布団に潜って行った。

 それと同時に

「待て待て待て待て待て!!!!!」

「ニャー!!!!!(待て待て待て待て待て!!!!!)」

 俺とリッパーはそう叫んだ。



 まぁ俺はこういう経緯でジャックと出会った。

 ここから私とジャックの……残殺との物語が始まる。

 まぁそこらの話は今度しよう。

 じゃあな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る