サンダー
第4話 赤色
ジャックはシャワー室で何かをしていた。ジャックは黒いシャツ一枚、黒いショートパンツ一枚とかなりの薄着だった。
「ニャー?(猫は水が嫌いって知らないか?)」
その理由はリッパーを洗っている為であった。
「しょうがないよ、リッパーは毛深いんだから匂いがビッシリ付いちゃう」
ジャックはリッパーに向けてシャワーを浴びせていた。リッパーは水が少々溜まった浴槽の中にいた。
「ニャー(普段家に居るんだしええやんか)」
「警戒は怠らない。師匠が言ってたことよ。しかもまだ黒豹二匹が私たちを追っているかもよ?」
ジャックはリッパーに付けた泡を洗い流し、体の隅から隅までシャワーで流した。
「よし、終わりだよ、リッパー」
「ニャー……(ふぅ、やっと終わりか……)」
ジャックはリッパーを浴槽から出し、リッパーをタオルでしっかり拭いた。
「ニャー…(うぅ、体が濡れて気持ち悪い…)」
「まぁ自然乾燥を待つしかないね」
ジャックはそう言い、ハンガーにかかっているジャックの普段の活動服を着始めた。
「ニャー?(どこか行くのか?)」
「うん、ちょっとした発明を思いついちゃって。それを作るための材料を調達してくる」
「ニャー……(一体どんな兵器ができるやら……)」
「リッパーはここにこのまま居てね、一時間以内には帰ってくる。あと濡れた体でベッドに乗っちゃダメだよ?」
「ニャー(ほいよ)」
ジャックはリッパーにそい言い残し、基地から出た。
「……ニャー…(……はぁ、暇だな…)」
リッパーはそう言い、ベッドの上に飛び乗った。
ジャックは東北方向へと進み、人が少ない路地の中へと入った。
そこは闇商売をしている商店街だった。違法な武器の販売や薬を売っている。そして近くにジャックザリッパーの活動地域がある為、人や警察が少ない。
ジャックはその路地の中の一つの店に入った。周りの建物と同じように石で造られていた三階建ての建物だ。
ジャックはその店に入るまでに人に出会わなかった。いくら闇商売に適した場所とはいえ、ジャックザリッパーの恐怖には勝てなかったらしい。人はどんどんとジャックから離れた場所へと移動していった。
ジャックが入った店は武器屋だった。
「おぉ、残殺じゃねぇか」
その店の店主「サンダー」が言った。
サンダーの見た目は五十代後半、身長は190前後。腹が出ており、綺麗に禿げている。白いシャツに黒いズボンを履いていた。
店の中は木造でかなりボロボロ、サンダーがいる木製のテーブルの周りにはガラスのショーケースがあり、その中には銃やナイフが乱雑に置いてあった。ショーケースだが人に見せる気はないようだ。
「その呼び名、やめてくれない?それは師匠が勝手につけた名前、ジャックって呼んでよ」
「あぁ、わかったわかった」
「そう言ってやめたことないよね?」
「へへ、気にすんな。ところで今日は何を求めて?」
「ちょっとした武器を作るからその分の材料を買いに来た」
「はいよ………金を取ると言ったら?」
「お前を殺してここにあるもの全部奪い取る」
ジャックは冗談半分で言った。
「へへ、そりゃ怖ぇや」
「しかも別に師匠からとんでもない金額活動資金としてもらってたでしょ?」
「こんなクズ人間に金を貯めれると思うか?」
「思わない、今晩の飯すら無さそうな顔してる」
「大正解だ」
ジャックは話しながら店の中に乱雑に置かれている使えそうな材料をどんどんと袋に詰めていった。
「へへ、結構持っていくねぇ」
「あ、そういえば前私が言ってたもの入荷した?」
「あと少し待て、もうすぐ届く予定だ。そう焦るな」
ジャックは荷物をまとめた。
「わかった。じゃ生きてたらまた来るね」
「じゃあの、店が潰れてなかったらまた来い」
ジャックはサンダーの店を出た。
ジャックはいっぱいになった袋を引きずりながら街を歩いていた。石でできた建物の壁がジャックの歩く音を反響させている。
「ふぅ……流石に取りすぎちゃったな………ん?何あれ?」
ジャックは近づいてくる黒い影を見た。
黒い影は二つに分身してジャックに突進してくる。
「んーー?アレって……黒豹か!」
ジャックは袋を適当に地面に置き、両手にナイフをセットした。右手にはこじんまりとしたデザートイーグルのような銃を構えた。
黒豹がはっきりと見えるようになった距離、ジャックは黒豹に向かって銃を放った。
弾丸は黒豹に当たったが黒豹はビクともせずジャックに向かって走り続ける。
「うーん…流石に口径が普段のだと小さいか……」
ジャックはポーチから銃のサイズには似合わない50口径の弾を取り出し、銃のマガジンを抜いて、銃のスライドを引いた。銃からは先ほど使っていた9mmの弾丸が出てきた。
ジャックは空いた薬室の中に50口径の弾を一つ入れた。不思議なことに大きな銃弾は銃の薬室の中に入った。
その時ジャックにむかって黒豹が飛び掛かる。ジャックはしゃがみ、その攻撃を避けた。
そして後から来た黒豹の目にナイフを刺した。
ナイフを刺された黒豹は暴れ、ジャックを空中に投げ飛ばした。
ジャックは投げ飛ばされ、逆さまになったが、そのまま空中で銃の狙いを定め、目にナイフが刺さった黒豹に向かってたった一発の弾丸を打った。
バン!!という銃声が響き渡り、銃弾は黒豹の頭にヒットした。
片方の黒豹は暴れる暇なく、ジャックに殺された。
ジャックは銃の反動で空中で半回転し、足からしっかり地面に着地した。そしてジャックは残った黒豹の方を見た。
残った黒豹はジャックをじっと見ていた。まるで獲物が油断するのを待つ猫のように。
ジャックもまた黒豹の方を一歩も動かず見ていた。まるで獲物が動き出すのを待つ猫のように。
数秒の時が流れる。
十秒ほど経った時、ジャックは突然動き、近くにあったゴミ箱の陰に隠れた。
それから一秒もしない間に黒豹の横に倒れていた黒豹の死骸が爆発した。
先ほどジャックはナイフを刺したと当時に黒豹の体に小型爆弾をセットしていた。しかし小型爆弾とは思えないほどの爆発が起こっていた。
生きていた黒豹は爆発に巻き込まれ、黒豹は壁に飛ばされた。
「ふぅ、よく私の場所がわかったね。さすがだよ」
ジャックはゴミ箱の陰から出てきて飛ばされた黒豹の前に立った。
「まぁ結局は負けちゃったけどね。けど君たちが生きてたら少し厄介になっていたはず。ここで出会えてよかった」
ジャックはそう言い、目の前に立っていた黒豹の首を切った。黒豹は死んだ。
「おいおい、結構派手な爆発が起きたような音がしたが?」
サンダーが駆けつけて来た。というか周りにはサンダー以外人が殆ど居ない。
「大丈夫、少し転んだだけ」
「転んだだけで黒豹二匹を殺せるんだな、スゲェや」
ジャックはまた袋を担ぎ、道を歩き始めた。
「………そんなに取らなければ苦労しなかっただろうにな…」
サンダーが呆れ気味に言い放った。
ジャックは自分の基地に戻って来た。
「ふぅ、やっと着いた…」
「ニャー(おかえり、また随分と取って来たね)」
ジャックは物が沢山入った袋をそこら辺に置いた。
「ニャー?(何を作る予定なんだ?)」
「ちょっと腕に大砲か何か付けたくてね。まぁとにかく威力の高い武器を腕に装着したいんだ」
「ニャー?(反動とかその辺は大丈夫なのか?ただでさえ身長も体重も低いのに)」
「まぁ基本一発限りの攻撃になるだろうから反動は特に気にしないよ。本当にピンチな時にだけ使う」
ジャックは腕回りに付けている機械を外した。袖の中に隠れていたため分らなかったがかなり大きい。
この機械には様々な機能が付いている。代表的なのはナイフだ。ボタン一つでナイフをジャックの腕にセットすることができる。 しかもそのナイフはジャックが握らなくとも手の中で固定されるため、ナイフを持ちながら銃をしっかり構えることができる。
他にも銃の反動を減らす装置などがあるが全部話せば一話終わるのでやめる。
「けどこの機械のどこに付けよう……」
「ニャー(まず発射物がしっかり相手に飛ぶようにしないとな)」
「………まぁ先に大砲を作るか」
ジャックは袋の中に手を入れ、使えそうな鉄パイプなどを机に並ばせ始めた。
「………水平二連ショットガン付けるのもアリだな……」
「ニャー(まぁ怪我せんように)」
「うん、分かってる」
「ニャー(少しサンダーの所に行ってきていいか?少し気になる事がある)」
「分った。一時間以内には帰ってきてね」
リッパーはジャックにそう言い、開いている出口から外に出た。
⬜︎⬜︎⬜︎
「へぇー、これがS&W M500って奴か。昔の銃とは思えないほど綺麗で完璧な構造だ」
サンダーは店の中で独り言を言う。
「威力は今現在でも最強。さすがだな。しかしこんな銃ジャックが撃てば吹き飛ばされるんじゃないか?まぁいいか、ジャックの事だ。何とかなる」
サンダーはその銃に弾を三発程度込め、それをテーブルの隅に置いた。
ジャックの痕跡を集めるための特殊部隊が黒豹のGPSを追いかけて来た。特殊部隊というか殆ど後処理班だ。
「あったぞ!黒豹の死骸だ!」
「クソ、やっぱり負けたか…」
黒い服に身を包んだ隊員達が言う。隊員の総数は七名ほどだった。
「……ん?何か地面に跡がないか?」
その言葉と共に隊員たちは地面に目をやった。地面の跡はジャックが袋を引きずった跡だ。
「おい!この跡建物に繋がってるぞ!」
「辿れ!!」
隊員たちは地面にできた一本の線を辿って一つの店に辿りついた。
隊員は店の扉を蹴破り、一斉に店の中に入った。
「JCUだ!!抵抗せず手を挙げろ!!」
自分たちの事をJCU(ジャックザリッパー捕獲部隊)と呼んだ隊員はアサルトライフルを店の中に向けた。
「……は?」
サンダーは戸惑いながら言った。
「ジャックザリッパー………ではなさそうだが……」
「絶対にコイツジャックザリッパーと繋がりがあるな…」
隊員はそう決めつけた。
サンダーはこそっとS&W M500を手に取った。
「抵抗せずに付いてこい!そうすれば此方も何もしない!」
アサルトライフルをサンダーに向けながら隊員が言う。なんとも説得力が無い。
「……俺が抵抗しないとでも?」
サンダーはS&W M500を隊員の一人に向け、そして重いトリガーを引いた。
すると凄まじい音と共に弾丸が飛び出でた。飛び出た弾丸は隊員の頭を貫通し、後ろの木の壁に穴を空けた。
「お、おい!!大丈夫か!!」
隊員からの返事はない。
「嘘…だろ?」
「あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「奴を取り押さえろ!武器の使用を許可する!!」
隊員はサンダーに向けてアサルトライフルを一発撃った。
サンダーはそれをなんとか避けようとするが避けきれず、弾丸が耳を掠った。
「あぁ!!」
サンダーは倒れた。
しかしサンダーは倒れたと同時に手に持っていたS&W M500をテーブルの下に投げ入れ、敵に見つからないようにした。
「取り押さえろ!!」
サンダーは隊員三名に取り押さえられた。
サンダーは全く抵抗せず隊員に連れて行かれた。
サンダーの店の中には血と死体とジャックに渡す銃だけが残った。
しばらくしてリッパーがサンダーの店に来た。
リッパーは惨状を理解し、すぐにジャックの家へと走り出した。
⬜︎⬜︎⬜︎
「……よし、完成!!水平五連ショットガン!!!まぁ一回撃ったら分解しないと再装填できないけどね……」
ジャックはそう言い、鉄パイプでできたパンフルートのようなショットガンを左手の甲に付けた。穴は五つ、ハンマーは五つあるが全て繋げられており、硬いレバーが引き金になっている。
「案外形になってるね。ビジュアルも悪くない、威力も十二分にある。一発限りの必殺技!!」
その時扉からカリカリと爪を擦るような音が聞こえる。
「あ、リッパー帰って来た?ちょうど……」
「ニャー!!!(サンダーの店が襲われた!!!)」
「……え?」
「ニャー!!ニャァァァァァァァ!!(細かい所は見た方が早い!!準備しろ!!)」
ジャックは急いではないが普段より早く武器の準備をした。そして水平五連ショットガンにバードショット弾を込めた。テスト発射はしていない。
ジャックはリッパーと共に家を出た。時刻は午後十一時、そんな真夜中の街に走る足音が静かに響いた。
ジャックはサンダーの店がよく見える建物の屋上に居た。
「黒豹の死体処理するの忘れてた……けどなんでこの場所にあるってわかったんだ?」
「ニャー?(推測だがあの黒豹にGPSがついてたんじゃないか?しらんけど)」
「まぁそう考えるのが無難か……」
ジャックは肉眼でサンダーの店の前の道を見ていた。警官などが多く居る。
「ニャー(サンダーはどうするんだ?)」
「実際に言ってしまえばサンダーは別に死んでも困らない。最終的には殺す予定だし。けど私がサンダーに頼んだ銃は欲しい」
「ニャー(店の中にその銃あったぞ)」
「よし、あの警官達を皆殺しにして銃を持って帰ろう」
「ニャー…(いや、サンダー助けよーぜ…)」
ジャックはリッパーの言葉を無視して建物から降り、サンダーの店の方向へと走り出した。
「……ニャー…?(……銃にしか興味ないんかな…?)」
ジャックは少し離れた所にいた警官に囁く。身長の関係で殆ど背中に向かって話していた。
「こんばんは。こんな所にいちゃ危ないよ?」
「……あ?」
そしてジャックはその警官の心臓に向かってナイフを刺した。
「ガハアァァ!!!!!」
その声を聞いて外にいた警官たちは一斉にジャックの居る方向を見た。
「皆さんこんばんはー。何かあったんですか?」
ジャックは刺していたナイフを引き抜いた。
血の雨がジャックに降り注ぎ、ジャックの右頬を血で濡らした。
「……」
警官達は黙ったまま怯えて固まっていた。
すると勇気を持った警官一人がジャックに向かって銃を一発撃った。
ジャックは飛んできた弾丸をナイフで真っ二つに切った。ジャックが振るったナイフは異次元のスピードで殆ど目視できなかった。
「……!?」
「あ、あぁ……ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その言葉と共に警官達は大混乱状態となった。
ジャックはナイフを構え、混乱した警官達に向かってナイフを振り回しながら突進した。ジャックの振り回したナイフは若い警官を、屈強な警官を、年老いた警官をどんどんと切り裂いていく。
そして外にいた警官は全員死に絶えた。
ジャックはサンダーの店の方向を見た。
「う、ううう動くなあぁぁぁぁ!!!」
「分かった」
ジャックはそう言い、水平五連ショットガンが付いた左手を前に出した。そしてショットガンの引き金となるレバーを引いた。
ドゴン!!という鈍く、大きい音が鳴り響いた。
水平五連ショットガンの中に入っていたバードショット弾は一斉に発射され、中にいた八人の警官の頭や腹、胸や足に穴を空けていった。
水平五連ショットガンの銃身はとてつもなく短いため、弾の拡散率は大きかった。左右の壁に穴が無数に空いている。
ジャックは水平五連ショットガンの反動によって後ろに一回転した。
サンダーの店の中からの音はなくなった。
「………ふぅ、やっぱり予想通りとんでもない威力……」
ジャックは立ち上がり、サンダーの店の中に入ろうとした。
ジャックが店に足を入れた瞬間、ジャックから死角となっていた左側から一本のナイフがジャックの足目掛けて飛んできた。
「!?」
ジャックは地面を蹴り、後ろへと回ってその攻撃を避けた。
サンダーの店の中からは一人の男がナイフを持って出て来た。男は手に持っていたナイフをジャックに向けてぶん投げた。
ジャックはその攻撃を横に避けようとしたが飛んできたナイフのスピードは凄まじく、ジャックの被っていたフードを切りつけた。
飛んできたナイフは後ろの石の壁に突き刺さった。
ジャックは出て来た男から距離を取った。
「……プロテクターの人間かな?」
「さぁ、どうだろうな。ジャックザリッパー」
中から出て来た男は身長が高く、細身の男だった。力は無いように見える。そして他の警官とは違い、白いTシャツに青いジャージを着ており、ラフな格好だった。髪の毛と瞳は赤い色をしていた。
「ジャックザリッパー?誰の事?」
「惚けるなよ。お前の顔はもう知れ渡ってる」
「へぇ、顔を見た人間はみんな殺してるはずなんだけどね」
ジャックはそう言いながら頭に被っているフードを脱いだ。
ジャックの美しい水色の髪の毛が月光を反射し、キラキラと光っていた。
「………ちなみに俺には小型カメラがついているからな?お前の顔を撮影してデータを本部に送れる。リアルタイムで」
「へぇ、それはどうかな?ここら一帯には電波が届かないみたいだよ?」
ジャックはそう言っているが実際にはジャックが着ている服に電波妨害の機能が付いているからである。
「…君が投げたナイフ、石壁に突き刺さってるね」
「あぁ、抜くことはできない」
「ふふ、銃弾の速度で飛んでくるナイフ……面白そう♪」
ジャックは陽気に言った。
「ところで君の名前は?」
ジャックが聞いた。
「……お前に教える必要はない」
「へぇ、後藤宵津(ごとうよいつ)って言うんだ」
「……何故俺の名前を知っている?」
「さぁ、なんでだろうね」
その言葉と同時に宵津は銃を取り出し、ジャックに向かって銃を撃った。
銃はM9のような一般的な銃だった。
「へぇ、普通に銃持ってるじゃん」
ジャックは放たれた弾丸をナイフで真っ二つに切った。
そしてジャックは宵津へと近づいた。
宵津は近づいてきたジャックに向かってナイフを振るったがジャックはそのナイフをかわし、宵津の背後へと回った。宵津は急いで振り向き、後ろに向かってナイフを振るったがそのナイフはジャックの髪の毛を少々切る程度だった。
ジャックはほぼ地面に寝そべった状態でいた。
「!?」
宵津は地面に居たジャックに驚いた。
ジャックはその体勢のまま宵津の足目掛けてナイフを振るった。宵津はそれをなんとか避け、ダメージは服を少々切り裂く程度だった。
宵津は急いでジャックとの距離を取った。
「………服を切っただけじゃ痒くもならんぞ」
「その言葉そっくり返すよ。髪の毛を切っただけじゃ赤ん坊でも死なない」
その言葉と同時にジャックと宵津は同時に動いた。どちらともナイフを相手に向かって振るい、二人が交差した。
「………けど肩を切られたら痒くはなるでしょ?」
宵津の左肩からは血が流れだしていた。
「……………お前もな、たかが俺程度にダメージを受けているじゃねぇかよ」
ジャックの左頬から血が少量垂れていた。
ジャックの血の色と宵津の血の色は同じように見えた。
「プロテクターの人間にダメージを食らったのは初めてだね」
「まぁ俺も組織の中では強い部類に入るっちゃ入る」
「………自分で言っちゃうんだね…」
ジャックは宵津に向かって突進する体勢になった。
宵津もまたジャックに向かって突進する体勢になった。
しかしジャックは宵津に突進せず、サンダーの店の中に入った。
「……?」
宵津は突進するのをやめ、銃とナイフを構えながらサンダーの店の中へとゆっくり入っていった。
(えーっと………どこだどこだ?)
ジャックは机の陰に隠れながらサンダーに頼んでいた銃、S&W M500を探していた。
(どこどこどこ?………あ!あった!)
ジャックは机の棚の下にあったS&W M500を手に取った。埃が付いている。
「机の裏に隠れていても無駄だぞ?」
入口から宵津の声が聞こえた。
ジャックはS&W M500の装弾数を確認した。空薬莢一つと弾が二つ入っていた。
「あっそ」
ジャックはできる限り体を縮めた。
パン、という発砲音の後にジャックの右側を弾丸が通る。
「けど机を貫通させて私に届いた弾丸の威力はかなり衰えちゃう。私を殺すには至らない」
ジャックの背中に銃弾が当たるが背中に付けている小型の盾がそれを弾いた。
「そうだな、しかしそれでもお前にダメージは与えれるだろう?」
「けど一発で殺す威力にはなれないよ。"私の以外"」
ジャックは撃たれた弾の軌道などから宵津が居ると思われる場所に向けてS&W M500を一発撃った。
轟音と共に放たれた弾丸は凄まじい速度で飛び、まずは机を、その次に宵津の腹を、そして最後に壁を貫通して飛んで行った。
「ゲハアァァ!!!」
宵津の苦しむ声が聞こえる。
ジャックは机から飛び出て宵津に向かって突進した。
「これでチェックメイトって奴だね」
ジャックは宵津に向かってナイフを振るおうとした。しかしその攻撃を宵津はナイフで受け止めた。
ジャックは宵津から少し離れた。
「へぇ、こんなんになってもまだ動くの?これじゃまだただのチェックだったね」
「………ただの致命傷だ……まだ戦える………」
宵津はジャックに向けて渾身の力でナイフを投げた。しかしその攻撃はジャックに少しも当たらなかった。
ジャックは飛び跳ね、空中で逆さになっていた。
「さようなら」
ジャックはS&W M500を宵津に向かって一発撃った。
放たれた弾丸は宵津の喉付近を貫通した。宵津は地面に倒れた。
ジャックは動かなくなった宵津をしばらく見つめた。
「………………ふぅ」
ジャックはそう言い、手に持っていたS&W M500の空薬莢をポーチの中に入れ、新たな弾丸をサンダーの机の上から取り出し、薬室の中に弾を込めていった。
そしてついでに机の上に置かれていた銃のホルスターを腰の右側にセットし、その中にS&W M500を入れた。銃はすっぽりとその中に入った。
ジャックはフードを被った。
「リッパー、聞こえる?」
ジャックのフードの猫耳の右側には無線機があった。自ら出している無線妨害装置を無視して電波を飛ばしていた。原理はわからない。
「ニャー(ああ、聞こえてる)」
「よかった。そっちはどう?」
「ニャー(サンダーが居ると思う施設には着いた)」
「分かった。案内して」
ジャックは水平五連ショットガンを解体して中に弾を込めた。
「ニャー(あぁ、案内する)」
ジャックは忘れ物が無いか確認してリッパーの指示に従い、街を飛び始めた。
△△△
宵津によって切り落とされた少量のジャックの髪の毛。
その髪の毛は月光を受けており、赤色に輝いていた。
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