第二話 『吸血鬼』
じゃあ、とりあえず魔法を教えてください。グレイス先生!」
「先生じゃねえよ。まあいいや」
アッシュとグレイスが話してるのを見てアレスは思わず笑ってしまう。
「2人ともすごく仲がいいんだね」
「まあ幼なじみだからね」
会話を続けながらグレイスに魔法を教わる三人。気が付くと多くの人だかりができていた。ライン達が不思議に思っているとすぐに紫髪の男がラインに炎魔法を撃ってきた。
「おっと…」
瞬時に不可視のバリアを展開しその攻撃を防いだ。
「急に攻撃してくるなんて。常識なってないぞお前」
「黙れ。俺の名前はレオ・ヴァルディ。お前を殺す」
周囲の生徒はどよめく。レオは学年内で2位の魔法の実力を持つ男で『煌星の影』という称号を持つ。その男が何故か10位以内にも入っていないラインを殺すと言うのだ。
「殺すって、決闘じゃない限り殺すのは禁止されてるぜ?」
「ああ、そうだったな。なら俺はお前に決闘を申し込む!」
決闘は本来10位以内に入れなかった者が10位以内に入っている者と戦い、勝てばその順位を奪えるというものだ。
決闘は相手を殺すか相手が敗北を認めたら終了する。決闘内では魔法以外にも武器や『権能』を使用してもいいことになっており時間制限などは特にない。
『権能』とは世界に生まれた者に創世神が2つ与える異能力である。
「…わかった。受けてやるよ決闘を」
ラインの返答に対して喜ぶ生徒と殺されないかと心配する生徒が8:2ほどの割合でいた。やはり他人が決闘をするのは観客としては楽しいのだろう。
アッシュもグレイスもラインを心配する。グレイスは『魔導師』として学校内で1位の魔法の実力がありレオにも勝つことが出来る人物だ。アッシュもまた武器を使用すれば学校内で1位の戦闘力を持つ男だ。
「ライン、決闘は強制じゃないんだ。受けなくてもいいんだよ」
「仮にもあいつは2位なんだ。『権能』もなかなかの者を持ってる。戦わない方がいい」
「ありがとな。でも…なんで俺を嫌っているか分からない」
「やる気があるなら始めようぜ!」
「あるわけじゃねえけどな…」
風が吹く魔法実習場でラインとレオがお互いを見つめる。周囲はその様子に野次を飛ばしながら応援する。
刹那、レオの初撃がラインに向けられる。
「フレイムスパーク!!」
炎の弾丸でラインを囲い連続的に攻撃を仕掛ける。ラインもまたそれを防ぎながら反撃の機会を伺う。
「ウィンドカッター」
撃ち続けられる炎の弾丸を風の刃で切り裂き続ける。
周囲は驚く。レオの炎魔法を次々と切断するラインの姿を。
その姿を見たレオは『権能』を使うことを決めた。
その瞬間ラインの飛ばした風の斬撃がラインに命中する。
「《覇王の支配》、俺の1つ目の『権能』だ」
「強ええ!! さすがレオの『権能』だ!!」
周囲の生徒もまたレオの『権能』を褒めて戦いを観戦する。
(『覇王の支配』か… 視界に収めたものを一時的に支配できる『権能』… 攻撃を続けても無駄だな)
ラインは創世神の力…『創世の神理』を使い『覇王の支配』に対抗出来る『権能』を作る。
ラインが飛ばした風の刃を支配しまたラインに返そうとする。しかし―
「うっ!!」
防御をしていなかったレオに重い一撃が入る。さっき飛んできた風の刃だ。支配してラインに返した刃がレオに当たったことにレオは不思議に思いながらも治癒魔法で回復をする。
互いが1度攻撃を止める。ラインがレオに「なぜ自分に決闘を申しこんだのか」と聞いた。
この質問へ返したレオの答えが一瞬の静寂を生む。
「そうだな… 教えて貰いたかったら、もっと本気で戦えよ!吸血鬼!!」
「なっ…」
瞬間、周囲の生徒も、ラインも、アレスも、セツナも、レンゲも一瞬驚いてしまう。
周囲の生徒はラインが吸血鬼だと言うことに驚きアレス達はバレたことに驚いてしまった。他クラスだというのに。
周囲では「吸血鬼?」と言ったような声が沢山聞こえる。
「知ってた…のか?」
「吸血鬼は絶対に殺す!!」
今まで遠距離から魔法を撃っていたレオはラインに急接近し魔法を仕掛ける。
そのレオの怒りに周囲は混乱する。
「待て!! 300年前の事件に俺の家系は関係ない!!」
「その事件とは関係ねえ!」
先程よりも魔法を連発されラインは全てを喰らってしまう。
「チッ!!」
負った傷は吸血鬼の再生力で瞬く間に再生する。
「仕方ねえな… 俺もやるしかない…」
ラインはレオを蹴り飛ばし撃たれた炎魔法を『創世の神理』で重力を操り下に落とす。
続けて周囲を夜に変え吸血鬼としての力を10倍上げることに成功する。
「周囲が急に夜に…」
生徒達は驚きながらもどちらも本気を出すことになったと思い先程よりももっと盛り上がることになった。
「やっと本気で戦う気になったか!!」
レオはもうひとつの『権能』…《獅子の咆哮》を使い驚異的な身体能力上昇と魔力量上昇を行う。
2人はもはや周囲の生徒が観測できない速度で動き回り戦闘している。
3分後、レオが地面に落ちてくる…
「おおおおお!! 吸血鬼の野郎強えじゃねえか!!」
周囲で歓声が起こる。しかしまだレオは終わらない。
「これでラストだ…」
瞬間、大きな爆撃のような音が鳴り、レオが《獅子の咆哮》で上昇させた魔力を全て使い渾身の魔力砲をラインに向かって放出する。
放出が終わった後、跡形も残らなかったラインがいた位置を見て生徒は驚きながら拍手をした。
「さすがの威力だな…」
「これで終わりかー」
そんな声が聞こえた中でラインの声が響く。
「まだ終わらねえよ!!」
「なっ!?」
血液の刃が飛びレオの体を貫いた。
レオに急接近しながら刃を抜き取りレオの傷を治す。
レオの意識が戻りレオはラインに尋ねる。
「なんで…俺を…助けた…」
「お前がなんで吸血鬼に怒りをぶつけるかは知らない。吸血鬼を嫌う者が少なからずいることは俺も知ってる。なんで君は…吸血鬼に怒りをぶつけるんだ?」
「5年前、俺の故郷の村に1人の吸血鬼がいたんだ。そいつは1年くらい村で生活して村の人達と仲良くしていた。でもある日、俺が村に帰ったら村が…血の匂いで染まってたんだ。すぐに家に帰ると家族が…全員殺されてたんだ。その時後ろから声が聞こえてきた。あの吸血鬼からだ。俺は『なんでこんな事をしたんだよ! 仲良く一緒に遊んだりもしたじゃないか!!』って。そしたら俺たちと仲良くしてたのは油断した俺たちを殺すためだった。って言われたんだよ。恐怖を通り越して絶望した俺も殺されそうになったところをこの学校の魔法科の先生に助けられた。俺は先生の養子になってここに入ったんだ…」
周囲の生徒も駆け寄りレオの話を聞いて殆どが涙を流した。
「俺は、ただお前が吸血鬼ってだけでお前のことが許せなかった。だから…悪かった。誤解してたんだ。吸血鬼って存在は全部悪だって」
「もう勝負は終わった。気にすんな。ま、この手を取れよ」
ラインはレオに右手を伸ばす。レオはその手を笑いながら握り周囲の生徒は歓声をあげた。
「殺すとか言われたのはあんま納得してねえんだけどな」
「悪かったよ」
「仲良くなれたようだね。ライン、レオ」
アッシュとグレイスが笑い泣きしながら近寄ってくる。
アレス、セツナ、レンゲもまたラインに向かって駆け寄ってくる。
「ラインお兄ちゃん!!」
「うおっ!」
レンゲがラインに抱きつく。
「大丈夫、ラインお兄ちゃん! 怪我はない!?」
「心配しすぎだ。もう全部治ってるよ」
「えっと…君はラインの妹? 悪かったな…」
レオがレンゲに申し訳なさそうに謝るとレンゲはラインの背中に隠れ牙を出しながらレオを睨み続けた。
「セツナ、あれは威嚇かな?」
「レンゲは兄妹大好きだから私たちが傷つくのを見たくないのよ」
セツナとアレスが笑いながら話しライン達の元に駆け寄る。
「まあ死ななくて良かったよ、お兄ちゃん」
「死なねえよ。てか縁起でもないこと言うんじゃねえ」
「そうだよ、セツナお姉ちゃん!!」
「はいはい。わかりました」
アレスがセツナの肩に手を置き見つめあって笑う。
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決闘が終わり四つ子とレオ達の絡みを見て周囲の生徒も笑いに包まれていった。
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