第12話 XX-501の真相

冷たい風が廃研究所の周囲を吹き抜ける。かつては最先端の研究が行われていた場所も、今では錆びついたフェンスに囲まれ、誰も近づこうとしない寂れた建物だ。芹沢孝次郎はその前に立ち、懐中電灯を片手に足元の雑草を踏みしめながらフェンスの隙間をくぐった。


「いやぁ、こういう場所というのは何かが隠されているものですよねぇ。」

彼は独り言を呟きながら、目の前の研究施設を見上げた。錆びた鉄の扉は半開きになっており、風に軋む音が不気味に響く。


扉を押し開けると、内部は埃と湿気の匂いに包まれていた。コンクリートの床には散らばった資料や機器の残骸が転がり、壁にはひび割れが走っている。天井の蛍光灯は全て壊れており、懐中電灯の光だけが廊下を照らしていた。


芹沢は慎重に足を進めながら、周囲の様子を観察した。目に入るのは、散乱した紙や壊れたモニターの残骸、錆びついた器具――そして床に微かに残る足跡だった。その足跡はまだ新しい。


「ほう、誰かがここに来たばかりのようですねぇ。」

芹沢は足跡を辿りながら奥へと進んでいった。


廊下の先に、一つだけ扉が半開きになった部屋を見つけた。懐中電灯を向けながら中を覗くと、そこには比較的保存状態の良い研究室が広がっていた。壁にはホワイトボードが設置されており、机の上には古いファイルや資料が散らばっている。


「いやぁ、これはまた興味深いですねぇ。」

芹沢は机の上のファイルを手に取り、中をめくり始めた。そこには「XX-501」という文字が記されており、物質の化学式や反応特性が詳細に記されていた。


「XX-501:燃焼特性」「高温下での異常反応」「プロジェクト中断の理由」

これらの文言が彼の目に留まる。さらに、被験者データとみられるページには、人体への影響に関する記述が断片的に記されていた。


「なるほど、これはかなりの危険物ですねぇ。そして、中断された理由も…」

彼が次のページをめくろうとした瞬間、背後で何かが動く音がした。


廊下の奥から微かな足音が聞こえた。それは一定のリズムを刻みながら近づいてくるが、やがて止まった。芹沢は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに柔らかな表情に戻り、懐中電灯を持ち直して廊下を覗いた。


「どなたかいらっしゃるんですか?」

しかし返事はない。足音は再び遠ざかり始める。芹沢は懐中電灯を掲げながら音の方向に向かって歩き始めた。


足音を追いかけると、別の部屋の扉が微かに開いているのを見つけた。そこから漏れる薄明かりに、誰かの影が浮かび上がっている。中に入ると、机に向かって何かを調べている中年の男性が見えた。


「いやぁ、こんな場所で人に会えるとは思いませんでしたよ。」

芹沢が声をかけると、男性は驚いて振り返った。その目には恐怖と疲労が混じっていたが、すぐに警戒心に変わった。


「あなたは…誰だ?」

男性は声を震わせながら問う。


「私は芹沢孝次郎です。心理学者でしてねぇ、ちょっとした謎を追いかけているんですよ。」

芹沢は柔らかな笑みを浮かべながら、相手を観察するように視線を向けた。「それより、あなたは?」


男性はしばらく黙っていたが、やがて重い口調で答えた。「私は田代だ。この研究所で働いていた者だ…」


芹沢は目を細め、微笑を浮かべた。「田代さんですか。それはまた心強いですねぇ。ここで何を調べていたんです?」


田代は机の上の資料を指差しながら言った。「…XX-501の研究資料を探していた。この物質が人の手に渡れば、大きな悲劇を招く…それを止めるために、ここへ来た。」


芹沢は田代の言葉に耳を傾けながら、机の上の資料に目を移した。その中には、ライフクエストとXX-501に関連する記録がさらに詳しく記されていた。


田代との会話が続く中、突然施設の奥から轟音が響いた。二人が振り返ると、廊下の奥から青白い光が漏れ始め、空気がピリピリとした緊張感を帯び始めた。


「これは…まずい!」

田代が声を上げた。二人が急いで現場に向かうと、施設の奥で青い炎が激しく燃え上がっているのが見えた。その熱気が廊下全体に広がり、建材が崩れ始める音が響いている。


「誰かがこの装置を作動させたんだ…!」

田代が呟き、崩れかけた床の向こうに目を凝らすと、炎の向こうに人影がぼんやりと浮かび上がった。その影はゆっくりとこちらを見つめているようだった。


「いやぁ、これはまた大きな謎になりましたねぇ。」

芹沢の口元にわずかな笑みが浮かぶが、その目は鋭く光っていた。


炎の中から徐々に姿を現す黒い影。田代が恐怖に顔を強張らせる中、芹沢は微笑みを浮かべたままその影に近づいていく。次の瞬間、影が一言だけ低い声で呟いた。


「まだ全てを知るには早すぎる。」


その言葉を最後に、炎が激しく渦を巻き、影は再び闇の中へと消えた。


次回予告


施設で発生した青い炎と、謎の影が残した不穏な言葉。その正体を追う芹沢は、XX-501が持つ危険性と、篠宮拓真の存在に迫り始める。次回、「燃える真実」――青い炎が映し出すのは、科学の闇か、それとも人間の欲望か。お楽しみに!

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