第8話 秘密の代償
森山彩香の告白で「プロジェクトXX」の存在を掴んだ芹沢孝次郎は、その謎を追うべく行動を開始していた。その影響が高瀬健一の死に直結しているとすれば、このプロジェクトの全貌を明らかにしなければ事件の本当の意味は見えてこない。芹沢はライフクエスト内部の情報を得るため、新聞記者の早川正樹に連絡を取った。
翌朝、都心の小さなカフェの隅で、芹沢と早川は向かい合っていた。テーブルには、ライフクエストに関する資料が並べられている。早川は疲れた表情ながらも、手元の書類を次々と芹沢に示した。
「これが高瀬部長の死の直後に出された会社のプレスリリースです。事故として処理された事件について触れてはいますが、プロジェクトXXのことには一切触れられていません。ただ、このプロジェクトが非常に重要なもので、会社の中核を担う計画だったのは間違いありません。」
芹沢はリリースの紙面を指で軽く叩きながらじっと目を通した。「ふむ、これは意図的に隠蔽していますねぇ。高瀬さんがこのプロジェクトに何か異議を唱えたことが、すべての発端になっている可能性が高いですね。」
「そう思います。ただ、このプロジェクトに関する詳細な情報は、内部の限られた人間しか知らないようです。」早川は声を落とした。
芹沢は顎に手を当て、少し考え込んだ。「早川さん、会社の内部監査部に誰か信頼できる人間はいませんか?こういう問題を知っていそうな人。」
早川は一瞬考え込み、小さく頷いた。「います。内部監査部の井上慎一という男性です。以前、匿名で私に情報を流してくれたことがあります。ただ、かなり用心深い人物で、簡単には接触できません。」
芹沢はにこやかに笑った。「そういう慎重な人ほど、面白い話を持っていますよ。会えるようにアポイントを取っていただけますか?」
その日の夕方、ライフクエスト本社の裏手にある駐車場に、芹沢は慎重な足取りで現れた井上と対面した。暗がりの中、井上は不安げに辺りを見回しながら、低い声で話しかけてきた。
「あなたが芹沢さんですね?この件に深入りするのは危険です。本当にそれでも調べるつもりですか?」
芹沢は軽く肩をすくめた。「いやいや、私はただの心理学者ですからねぇ。でも、人の心の闇を覗くのが趣味みたいなものでしてね。」
井上はその言葉に困惑した表情を見せたが、手に持っていたUSBドライブを差し出した。「この中にプロジェクトXXに関する資料の一部が入っています。ただ、これ以上のことには関わらないでください。私はここまでしか協力できません。」
芹沢は笑顔でUSBを受け取り、軽く頭を下げた。「ありがとうございます。これだけでも十分ですよ。あなたが勇気を出してくれたおかげで、一歩進めそうです。」
井上は一瞬だけ芹沢を見つめた後、小走りで駐車場を後にした。その背中は、何かを背負うように重く見えた。
その夜、芹沢は自宅のデスクに向かい、USBドライブの中身を確認した。データフォルダを開くと、そこにはプロジェクトXXに関連する資料がいくつか保存されていた。
「試験対象者:被験者A、B、C
投与薬物:XX-301
副作用:精神的不安定、記憶障害、身体機能の低下」
資料を読み進める芹沢の表情が、徐々に険しくなる。人体実験――その内容は倫理的に許されないものだった。さらに、資料の一部には高瀬健一の名前が記されており、彼の反対意見も詳細に記録されていた。
「この研究は企業としての一線を超えている。もし公になることがあれば、会社全体が危機に陥るだろう。」
芹沢はその文章をじっと見つめた。「なるほど、高瀬さんはこのプロジェクトを止めようとしていたんですねぇ。それが彼の命を奪う理由になった、と。」
USBの最後のファイルには、ライフクエストの幹部たちの名前が並んでいた。その中には、人事部長の野口達也の名前も含まれていた。
翌朝、芹沢は早川に電話をかけ、これまでの進展を報告した。電話の向こうで早川は息を飲んでいた。
「やはり高瀬部長は、何かとんでもないものを知ってしまったんですね。これをどう扱うべきか…」
芹沢は笑いながら応じた。「まぁ、焦らずいきましょう。まずはこれをもう少し掘り下げる必要がありますからねぇ。」
電話を切ろうとしたその時、芹沢は背後に何かの視線を感じた。振り返ると、通りの向こう側に停められた車の中から、無表情の男がこちらをじっと見ていた。
芹沢はゆっくりと笑みを浮かべながら、通話を再開した。「早川さん、どうやら私たちの動きがバレているみたいですねぇ。これはますます面白くなってきましたよ。」
車の男は動かないまま、視線だけを送り続けている。その様子に危険を感じながらも、芹沢はゆっくりとその場を後にした。「さて、この先はもう少し用心深く動かないといけませんねぇ。」
次回予告
プロジェクトXXの闇と高瀬健一の死を繋ぐピースが見つかるにつれ、芹沢に迫る危険も増していく。ライフクエストの幹部たちが隠す真実、そして事件の本当の黒幕は誰なのか?次回、「闇に潜む顔」――真実と危険が交錯する中、事件の核心がついに暴かれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます