第3話 密室の罠

芹沢孝次郎は、警察署の一室で監視カメラ映像と電子ロックの履歴データを前に腕を組んでいた。そこには、事件当夜の映像と、村上直人が最後に使用した実験室の電子ロックの記録が映し出されていた。


監視カメラ映像には、村上が夜遅くに実験室へ入っていく姿が映っている。その約30分後、密室内で「青い炎」が発生し、彼が命を落とした時間帯に、扉のロック解除履歴は一度も記録されていなかった。扉は完全に閉じられたまま。誰も出入りすることができない状況だ。


「誰も入っていないのに…この『密室』のからくりは何だ?」

警部補は頭を抱える。


一方、芹沢は飄々とした態度で映像を見つめ続ける。目を細めながら、ふと村上が入室する直前の映像に注目した。


「ここですねぇ、面白いのは。」

芹沢が指差したのは、事件直前に村上が実験室に入る少し前、片桐翔が部屋の前に立ち止まり、しばらく何かをしている様子だった。


片桐は実験室の扉に何かを取り付けるような仕草をし、数秒後に去っていった。その行動はカメラにはっきりと映っていたが、何をしていたかまでは映像だけではわからなかった。


「片桐が実験室の扉に触れている…まさか…」警部補は驚きの表情を浮かべる。


芹沢は肩をすくめながら言った。「彼がやったことが、この密室トリックの鍵になる可能性は高いですねぇ。ただ、まだ足りません。この映像を補完する何かが必要です。」


その日の午後、芹沢は研究所に戻り、実験室の扉をじっくりと調査していた。電子ロックのパネルには、通常の使用ではありえない微細な傷がいくつか残されていた。


「ふむ…ここに何か仕込まれていた可能性がありますねぇ。」

芹沢は、電子ロックの履歴を再度確認した後、実験室の中へ入った。


部屋に入ると、彼は焦げた床と村上の机に置かれた金属製のコーヒーマグに再び目を留めた。そして、机の近くに設置されていた小型の空気循環装置を注意深く観察し始めた。


「これは…なるほど。」

芹沢は小さく笑みを浮かべ、机の上の資料をめくりながら呟いた。「これで青い炎の正体が少しずつ見えてきましたねぇ。」


机には、村上が最後に記していた新薬の開発メモが残されていた。そのメモの端には「試薬A」と「触媒B」とだけ書かれていたが、それが具体的に何を指しているのかはわからなかった。しかし、芹沢はその記述を見て、何かを確信したように頷いた。


一方で、芹沢は片桐翔に再度話を聞くため、研究所の休憩室へ向かった。片桐は警察の聴取を受けた後で、疲れた表情を浮かべながらソファに腰を下ろしていた。


「いやぁ、片桐さん。大変なことになってしまいましたねぇ。」

芹沢は柔らかい笑みを浮かべながら片桐の隣に腰を下ろした。


片桐は苛立ちを隠すことなく答える。「芹沢さん、私は何もしていません。村上さんが亡くなったのは不幸な事故です。あの密室にどうやって誰かが侵入できるっていうんです?」


「うーん、そうですねぇ。確かに密室は不可能に思えますねぇ。でもね、私は別に“誰かが侵入した”とは考えていませんよ。」

芹沢の目は、片桐の表情を細かく観察していた。


「じゃあ、何が言いたいんです?」片桐は視線をそらしながら答えた。


「ふむ、村上さんが亡くなった夜、片桐さんは何をしていましたかねぇ?」

芹沢の質問に、片桐の手が一瞬震えた。


「実験室の近くにいただけです。研究資料を取りに行っただけで、何もしていません。」片桐は冷静さを装いながら答えた。


芹沢はその言葉を受け流すように頷きつつ、こう言った。「なるほど、なるほど。ところで、片桐さん。この研究所には非常に高価な試薬や装置が揃っていますよねぇ。たとえば、メタノールのような揮発性の液体も扱っているでしょう?」


片桐は明らかに警戒心を強めた。「それがどうしたと言うんです?」


芹沢は笑みを浮かべながら立ち上がり、部屋を出る際に一言だけ付け加えた。「いえいえ、ただ、青い炎を作り出すにはね、いくつかの条件が必要なんですよ。すべてのピースが揃えば、きっと真実が見えてきます。」


その夜、芹沢は警部補に連絡を入れた。「警部補、いよいよ事件の全貌が見えてきました。明日、もう少しだけ確認したいことがありますが、この事件のトリックと犯人の動機はほぼわかりましたよ。」


次回予告


芹沢が掴んだ密室トリックの真相――青い炎を発生させた仕組みと、密室を作り出した犯人の計画。次回、「青い炎の真実」――全ての謎が明らかになり、芹沢が犯人を追い詰める。

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