姫さまは、歌いたい④

 何やら落ち着きません。

 それもそのはず。

 ワタクシの姿が、

 えっ。

「あなたでは、ヒト型の方がいいでしょう」


 ワタクシの短かった脚が、手が、長く伸びております。どおりで、先ほど後ずさりした時、一歩の歩幅がおかしいな、と思ったのですよ。

 姫さまとの距離感に違和感を覚えるわけですよね。

 ワタクシの背がいつもより高くなっているのですから。姫さまの視線を受け止める高さが違います。姫さまに近くなりましたね。姫さまのお顔を近くで見ることができるとは、嬉しゅうございますね。


「あなた、かわいいわね」

 姫さまのクスクス笑いが、降ってきます。理由が分からずほうけておりますと、姫さまがあのきらきらした円盤を取り出しました。

「まずは、歌って、踊りましょう」


 満月フルムーンの歌が流れました。五人の男子おのこが舞う姿が写し出されます。

 昨夜、何度も繰り返し聴きましたからね。覚えております。何度も舞いましたからね、この動き。曲を聞いただけで体が動いてしまいますよ。悔しいかな。ヒト型になりましたから、映し出される男子おのこ達のように、軽やかに、そして、のびやかに舞うことができてしまいますよ、ワタクシ。そんなこと、決して姫さまには言いませんけれどもね。


 そうして、何曲か舞い踊った姫さまが、汗を流しに湯あみをされました後、ワタクシにも湯あみをするようにとすすめられたのですよ。ワタクシ、最初はお断りいたしましたよ。けれども、今はヒト型ですからね。汗がべっとりと肌に張り付く感覚が何とも不愉快でしたので。お言葉に甘えて、と。

 ここで、ワタクシは、姫さまがワタクシを見て「かわいい」とおっしゃられた理由を知ることになるのです。




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