姫さまは、歌いたい➂

 一体どこから、姫さまが無断でへと行ったことが、洩れたのでしょうか。


「わたくし自ら言いに行ったのよ、今朝」

 は?

 何とおっしゃいましたか、姫さま。

 その言葉の深刻さを感じさせない姫さまの笑顔に、ワタクシは思わず、後ずさりいたしました。

 ん?

 心なしか、いつもより一歩の距離が大きくなった気がするのですが。


「わたくしね、いいことを思いついたのよ。

 今のわたくしでは、年に一度、中秋の名月の日にしか地に降りられない。

 それでは、次の満月フルムーンのライブに行けないじゃない」

 ねぇ、それはとても残念なことでしょう。


 うっ。

 姫さま、その同意を求められても。ワタクシが否定できることではありませんよね。


「昨日、途中で帰ってきちゃったし」

 ぽそっと呟くのも、やめていただけますか。

 ワタクシが、悪うございました。

 本当に、その節は、申し訳ございません。

 平に、平に、ご容赦を。


「だからね、しばらくにいたいなぁ、って」

 満月フルムーンのライブとやらに行くために、ですか。


「少なくとも、次の中秋の名月が来るまでの間はに居られるわよ」

 姫さま、は、「離れの宮」ですよ。咎人とがにんの仮住まいとされているところですよ。

「別に、気にしなくてよ。そんな昔話。

 これで、わたくし、気兼ねなく『推し活』できるのですもの」

 ふふふん、と鼻歌を歌い出した姫さまです。ごきげんです。


 本当に、よろしいのでございますか。

 ワタクシは、不安にございます。

 それに『推し活』って、何でございましょう。

 ああ。

 先ほどからワタクシ、姫さまとの距離がいつもと違って感じるのですが。

 これは、一体どういうことでしょう。



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