姫さまは、歌いたい②

 中秋の名月から一夜明けて。

 姫さまは、早朝より、どちらかにお出かけのようでございました。

 ワタクシは、姫さまの自室の次の間に控えておりますので。姫さまがお出かけになるのであれば、とお供を申し出たのでたのすが。

「あなたは、ついてこなくてよろしい」

 冷たく言われてしまいまして、こうして、姫さまの帰りを待っておる次第にございます。


 昨日は、幾度となく「満月フルムーン」の歌を聞き、舞っていたものですから。姫さまの自室にいるだけで、ワタクシの頭の中では、みかどの声が響いてきます。


 それにしても、姫さまは早朝より、どこにお出かけされたのでしょうね。

 ワタクシ、またもお留守番でございます。

 さみしゅうございますよ。


 あ。

 姫さまがお戻りになられました。

 おかえりなさいませ。


「あなたも一緒に行くのよ」

 ?

 あのう、姫さま。結論だけをおっしゃるのは、非常に端的でよろしゅうございますが。出来れば、もう少し、経緯と言いますか。誰が、何を、どうして、どこへ等、詳細を教えていただけないでしょうか。


「わたくし、へおろされることになったのよ」

 !!

「だから、あなたも一緒に来なさい」


 それは、もう命令ですね。

 ワタクシに否と答える権利はございませんものね。

 それで、

 出立は、いつにございますか。

「行くわよ」


 言うが早いか、姫さまとワタクシは、月都にある姫さまの自室から、に用意された「はなれのみや」へとおろされたのです。

「離れの宮」とは、その昔、月からへの流罪にあった月人が住んだという、における仮住まい。

 姫さま、咎人とがにん扱いなのですか。


 誓って、ワタクシは、姫さまがへと無断で行かれたことを、誰にも告げてはおりませぬ。

 それなのに。


 姫さま、お願いですから、もう少し説明してくださいませんか。




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