姫さまの追放

姫さまは、歌いたい①

「ほんとうに。

 あの時は、びっくりしたもの。

 月で留守番をしているはずのあなたの気配がしたのよ。

 最初は、気のせいかと思ったわ。」

 気のせいでなくて、スミマセン。


「そうね。

 わたくしの勘違いでなかったから、あなたを保護できたのですものね。

 あなた、ヒト型の変化へんげ、もう少し練習したら」

 ふふふ、と意味あり気に笑われる姫さま。


 ワタクシがヒト型に変化した姿、姫さまは御覧になったということでしょうか。

「いいえ、見ていないわ。

 わたくしが保護した時には、あなた、もう うさぎの姿をしていたのだもの」

 くすくすくす


 本当に、見ておられないということなのでしょうか。姫さまのその笑い方には、引っ掛かりを覚えてしまうのですが。

 まあ、ワタクシも精進致します。


「それにしても、今回の一件。あなた、口外しないって本当よね」

 もちろんにございます。

 ことの顛末を報告するとなると、ワタクシの未熟な変化のことも伝えなければなりませぬゆえ

 先ほども申しましたように、ご内密に、と願えればと思います。


「そうねぇ。

 じゃあ、もう一回、歌いましょう。

 ほら、あなた、今後は、ヒト型になって踊りなさいよ」

 そ、それは、姫さま、無理難題を押し付けないでくださいまし。

 と、いうワタクシのささやかな犯行など、姫さまの目に留まることもなく。


 姫さまの自室には、再び、五人の見目麗しき男子おのこの映像と歌声が、響いたのでございます。





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