姫さまは、語りたい⑤

 今日は、満月まんげつではない。

 それが、何を意味するのか。

 とっさに理解できなかったワタクシに、姫さまが丁寧に補足してくださいました。

「今年の中秋の名月は、満月に一日足りなかったのよ」


 な、なんと!

 それは、うっかりしておりました。

 昨年の中秋の名月は、満月と重なっていたではありませんか。

 中秋の名月が、必ずしも満月と重なる訳ではない、と 昨年教えていただきましたのに。


 そう、

 昨年の中秋の名月が、ちょうど満月と重なっていたことから、その日にあわせて姫さまの裳着もぎを行ったのでした。

 裳着もぎというのは、女児における成人の儀のことにございます。成人と申しましても旧のしきたりにおける成人であります。ちなみに、男児においては、元服げんぷくと呼ばれる儀がございます。


 現在の月都におきましては、いくら裳着もぎを済ませたとしても、仮成人としてしか扱われません。成人とされる年齢が昔と変わってしまったからでございます。そのため、元服げんぷく裳着もぎを行わなくなっている者も見受けられるとか。とはいえ、旧のしきたりを受け継ぐ家におきましては、成人の儀は、重要な意味をもっているのです。

 このお話は、また別の機会にすることと致しまして。


「あなたの場合、満月まんげつによって変化へんげがかなうのではなかったかしら。

 満月まんげつに一日足りないことが、どういう結末を生んだか」

 おわかりになるかしら。わたくしに迷惑をかけたということが。


 少し、お怒りのこもった目でワタクシを見る姫さまです。

 申し訳ございません。

 至らぬうさぎで。

 箱のような建物の中で、女子おなご達の熱気にあてられて解けるような未熟な変化へんげで。

 本当に、あの時、姫さまに拾ってもらわなければ、どうなっていたか。

 考えるだけで、恐ろしゅうございますね。





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