姫さまは、語りたい④

「ふうう。やっぱり、満月フルムーンは、最高! みかどが、最推し!」

 額の汗を拭いながら、輝く笑顔の姫さまです。

 ワタクシは、立っているのが、やっとでございます。あるじである姫さまの御前ですから、床に寝転がりたい気持ちを必死で抑えております。ううっ。


「あら、あなた、その姿で踊ったの?」

 飲み物を口にされ、ひと息ついた姫さまが、今更のようにワタクシを見ております。

 えっと、姫さま。その姿とは? ワタクシ、もともとこの姿ですが。

をとればよかったのに。あなた、変化へんげできるのでしょう」


 今、何とおっしゃいました?

 ワタクシが変化へんげできることは、誰にも告げたことはございませんが。無論、姫さまにも。本来ならば、主である姫さまに隠し事などできませぬが。

 お恥ずかしながら、ワタクシの変化へんげは不完全なものでありまして。とても、とても、「できる」などと豪語できるようなわざではございませんので。

 舞い踊っていた先ほどまでとは違った汗が、ワタクシの背中を流れていきます。


 わたくし、知っているのですよ。

 姫さまの鋭い視線が痛いです。声に出しておっしゃらなくても。


「あなた、今日がどういう日か、知っているのよね」

地和暦ちのわれきで言うところの「中秋の名月」にございますね」

「そうよ」

 そう。今日が、で言うところの「中秋の名月」であるからこそ、姫さまがへとお出掛けできたのですよね。


「そして、我が満月フルムーンのライブ初日」

 ぽそり、と口に出し、頬を赤らめた姫さま。しかし、次の瞬間には、厳しいご指摘がワタクシに向かって飛んできました。

「今日は、満月まんげつではない」






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