姫さまは、語りたい➂

「それからね」

 と、姫さまは、続けます。

「紺がおぼろで、みどりさく


 ワタクシが黒だと思っていた衣の色は、紺色だったのですね。失礼しました。とても濃い紺色なのですね。

 それに、みどりとは。


 で、姫さま、この二人に関しては、説明はそれだけなのですか。

 はしに行けば行くほど、説明が短くなっていっている気がするのですが。


「そうだわ。あなたも一緒に観なさいよ」

 姫さまは、何やら思いついたようです。


 表面がきらきら光る円盤を掲げて

「あなたも一緒に踊るのよ」

 ワタクシが、何のことやら分からずにいるのはお構いなしに、姫さまの自室に音楽と映像があふれました。それは、あの箱のような建物の中で繰り広げられた歌と舞でありました。


 ♪こいわずらいさ

 こいつらい♪♪♪


「はい、両手を胸に。顔は左。体を斜めに、左後方へ。三歩。顔は、正面。笑って」

 姫さまは、“センターのみかど”と同じ動きをなさっております。そして、それをワタクシにも、舞え、と。

 白っぽい黄色の衣が跳ねました。

『あなたも跳びなさいよ』

 と、姫さまの目が訴えます。

 ワタクシは、必死です。

 この慣れない速さで舞うのに。

 短い脚がもつれます。


「右手を挙げて。まっすぐ。視線は指先へ。顎上げて」

 姫さまの模倣は素晴らしい。

 寸分違わず舞っておられます。


 一曲終わったかと思えば、次の曲。そして、何曲か後にまた同じ曲が流れます。

 舞うのです。

 舞わなければならないのです。

 繰り返されます。

 姫さまは、舞いながら歌っておられます。

 ワタクシには、そんな余裕はございません。

 姫さまの舞姿を見ながら、姫さまのお気に召すよう、舞うのに必死でございます。

 まだ、続くのですか。

 ああ、

 姫さまは楽しそうですね。

 ワタクシは、歌ってもいないのに、息が切れ切れでございますよ。




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