第17話 俺はけっこう優秀なヒーラーである

 俺は落とし穴に降りた。

 エルフのジルは怪我をしているらしいし、穴の底に怪我人を放っておくわけにはいかない。


 獣人のボボンが胡散臭そうな目で俺を見る。

 助けがいのないヤツだ。

 ボボンは熊の獣人だそうだ。

 黒い毛皮の大きな体と突き出た鼻、首回りにはモフモフの白い毛が生えていた。


 ジルは小柄なエルフ族の女で、濃い灰色ダークグレーの髪を二本の三つ編みのお下げにしていた。

 目は青灰アイスブルーだ。

 横たわったまま大きな目でジロっと俺を見る。

 こちらも助けがいのない女である。


「俺は治癒術師ヒーラーのエドモンだ。助けに来た」

 俺は自己紹介する。


「怪我人はジルだ」

 熊の獣人が、ボボンだっけ、大きな毛深い手で横たわるエルフの女を指差した。



「今、ボクは治癒術ヒールを掛けてるところ。もうじき治る」

 ジルは身は動きせずに言う。


「俺は上級治癒ハイヒールを使える。

 ダンジョンは危険だ。早く治した方がいい」


 しばらくの間があった。


「分かった。お願い」

 ジルは横になったまま言った。



上級治癒ハイヒール


 怪我は打撲と、肋骨にちょっとだけヒビが入ってるな。

 この程度なら一気に治せる。



 ジルの怪我を治した後、穴の底から俺達は順番にロープで引き上げられた。



「私は冒険者組合直属の地図屋マッパーよ。

 マッドハウスが発生してる。

 解決のために協力をお願いするわ」

 お願いと言いながらも、アイラの声は厳しく問答無用の強制力があった。


「私達はあなた達三人の命の恩人でもある。

 冒険者の誓いに基づき、偽証はなしよ」



「オレから話す」

 獣人のボボンが言った。



「オレ達は四人でダンジョンに潜った。

 地上一層てはスライムしか出なかった。

 だからここまで降りてきて、スケルトンを狩った。

 オレは強い。スケルトンは弱い。

 オレはスケルトンを八体狩った」


 ボボンは誇らしげに言った。


「私はボボン達と十体、エド様達と5体、合わせて十五体狩りましたよォ」

 ヴィオラが茶々を入れた。


 ボボンは少し悔しそうな表情?になった。



「狩りは順調だったが、ヴィオラがだんだん苛々してきた。

 なぜそんなに苛ついていたか。

 オレはヴィオラは腹が減ってるんだと思う」


 ヴィオラは沈黙している。


「腹はオレも減ってる。デニスに言って早めの昼メシになった。

 でも吸血鬼ヴァンパイアのヴィオラは飯がないんだ。

 これはかわいそうだ」


「そんなヴィオラにジルは怯えていた。

 ジルの気持ちもわかる。

 自分より強いヤツはこわい。

 ソイツが自分を食うかもしれないと思えばさらにこわい」



「昼メシの後、これからどうするか話し合いになった。

 オレとヴィオラはもう少し狩りをしたかった。

 ジルとデニスは早めに切り上げたかった」


「それで?」


「ヴィオラはいよいよ苛ついていた。

 ジルは怯えていた。

 ジルは一人でも帰ると言って立ち上がった。

 オレはジルを止めようとしたが、デニスが話しかけてきた。

 早く帰ろうと説得された。

 狩りの中止は残念だが仕方がないかと考えた。

 その時、グサッと音がして、そしてドサッと音がして、ヴィオラが倒れていた」



「その後はともかく入り口まで戻ろうということになった。

 帰り道で落とし穴に落ちた。

 三人で肩車をして上まで登ろうとしたが、ジルが落ちて怪我をした。

 後はお前らが知ってる通りだ」


 ボボンの言い分は言葉は少ないが明快だった。



「次はジル、あなたの番よ」

 アイラがジルに声をかける。


 エルフのジルは唇を強く結んでいる。


「お、オレが変わりに」

「ううん、ボクが話す」

 デニスの言葉をジルは遮った。





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