前日譚 2話

 俺はリナと名乗るお姉さんに連れられて、ドをつけないいけないくらいの田舎な村にやってきた。

 村の入り口には、村全体を囲う高さ2メートルくらいの木の杭が地面には刺さっていた。その中央には人が出入りできるような小さな扉がつけられていて、俺たちはその扉から村の中に入った。

 元いた世界でいうのなら、山間部の小さな集落のようだった。ぱっと見町の人口は100人いないくらい。建っている建物の数が物語っている。民家は日本とは違って、木ではなく石積みの作りだった。頑丈そうな作りだ。門もそうだけど、魔物でもくるのだろう。

 それはそうと。俺よそ者だからめっちゃ見られている。恥ずかしい。そんなに見つめないであがり症だから。

 

「この村に来たらまずは村長さんのところに行かないといけないの。軽く挨拶をすれば大丈夫だから、力抜いてね」

 

「……は、はい」


 それはコミュ障には1番できないことなんですけど。カンペか台本渡してくれないと、ろくに喋れないからね。どうなっても知らないからね。

 

 リナさんが足を止めた家は、周りの家よりも大きく、小さなお城のようだった。

 さすが村長。いい家に住んでいるんだな。

 

「少し待ってて着替えてくるから」

 

 リナさんの家なんかい。

 見かけによらずいい家に住んでいるな、リナさん。お金持ちなのかな?

 リナさんを待つこと体内時計で3分。さっきまで着ていた露出の多い戦闘服ではなく、可愛らしいトレーナーにロングスカートという、女の子らしい格好に身を包んで登場した。破壊力抜群のその姿に、俺の心は完全に撃ち抜かれていた。

 か、かわいいー! かわいすぎて心臓が破裂しそうだ。スマホがあるのなら写真を撮って待ち受けにしたい。毎日崇めるのに。

 

「お待たせ……どうかな?」

 

 似合ってないと自分で思っているところもかわいい。それは反則だ。もう、かわいい以外の言葉が出てこない。

 

「かわ……に、似合っているよ……」

 

 危なかったか。まだ出会ったばかりなのに、初手でかわいいとか言ったら、チャラいやつだと思われかねない。まずは真面目なやつだってことを証明しないと。

 

「ありがとう……」

 

 はあああ! ダメだ。かわいい。言葉に出したいかわいいって。大声で叫びたいかわいいー! って。というか。この初々しいカップルのような会話なんだ! そういうことでいいのか! まだ初めましてなのに!

 

「そ、それよりも行こうか」

 

「あ、そうですね……」

 

 リナさんがかわいすぎて、村長のところに行かないといけないということをすっかり忘れてしまっていたよ。ああー。思い出しただけで緊張する。さっきまでとは違うドキドキだ。リナさんでドキドキする方がよかった。心が躍っていたのに。

 リナさんに連れられて、今度はそこら辺の民家よりも大きめの石で作られた家の前で立ち止まった。

 ここが村長の家か。確かに雰囲気はある。最後の砦のような。頑丈そうだ。

 リナさんが扉をノックして中からは若い男が出てきた。

 

「何用だ」

 

「森で迷っている人がいたので村に連れてきたのです。村長さんとの面会を希望します」

 

「わかった。少し待ってろ」

 

 男は扉を閉めて中に行った。それを見たリナさんは長いため息を吐いた。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「村長さんの家に来るのは私だって久しぶりだから緊張するの。特にアユムを連れているから……ちょっと怖い」

 

 そんな大事なこと今言う⁉︎ 少し前に「軽く挨拶をしたら大丈夫」って言ってなかった⁉︎ そこそこの覚悟ではあるけど決めたつもりだったのに。余計に緊張するようなこと言わないでよ。もう、考えていた言葉全部飛んでしまったよ。ほとんど何言うつもりか考えていなかってけど。

 ……特に会話を膨らませることができなかった俺たちは、無言でさっきの人が来るのを待っていた。扉だけを一点に見ながら。

 ガチャ。

 静かにしていたから、扉が開く音が大きく聞こえた。中からはさっきの若い男が出てきた。

 

「迷い人。名を聞いても?」

 

 そんなに威嚇しないで萎縮しちゃって、言葉が出なくなるから。あとトイレしたい。

 

「あ、え、っと……こ、古保歩こぼあゆむです……」

 

「わかった。村長に伝える。中に入れ」

 

 それ先に済ませることできなかったんだろうか。君、二度手間じゃない?

 と思いつつも口に出すことはせずに、大人しく後をついたて行った。

 だって、あの男ヤンチャそうで怖いから。こういう輩には何も言わないのが正解。

 

「ここで待ってろ」

 

「わかった」

 

 俺たちは入り口入ってすぐの応接間のような部屋に案内された。木製のチェアに木製のローテーブル。それしかない部屋だ。

 応接間に案内されたら目上の人が来るまで座っちゃいけないのがルール。入り口に視線を向けていつでも対応できるようにしないといけない。

 リナさんは何も言わずに普通に椅子に座った。

 

「アユムも座らないの?」

 

「え……あの、ぼ、僕はいいです……はい。立っている方が好きなので……」

 

「そうなんんだ。不思議な人ね」

 

 俺のバカ! なんでいちいち余計なことしか言えないの⁉︎ 「立っている方が好きなので」それのどこがかっこいいセリフなんだ! ダサいよ。人生史上1番ダサいよ。

 この後も会話を膨らませることができなかった俺は、応接間で立ったまま、無言のリナさんと共に村長が来るのをため息を吐きながら待った。

 気まずかった。何かを言いたいけど、何を言えばいいかわからなくてもどかしかった。何度俺も座ろうかなと思ったことか。

 正面に座るのか隣に座るのか、斜めに座るのか。悩んでいるうちに、扉をノックする音が聞こえて、僕らをここへ案内した若い男とともに、白髪に白髭を生やした老人が現れた。その老人は俺を見るなりこう言った。

 

「お主、この世界の人間ではないな」

 

 ………………なんでわかった⁉︎ てか、どういう反応すればいいんだ。バレていいいことかわからないから一応否定してみる? それはそれで反感を買いそうだからやめておこうか。閉鎖された町でこそ、郷に入れば郷に従えだから。村長の言葉を否定することは許されない。

 

「は、はい……」

 

「………………」

 

 なんで無言なの⁉︎ それと若干開いている目で睨むように見るのやめて。怖いから。

 

「……やはりそうか」

 

 反応遅っ! なかなか話してくれないから、何か余計だったのかと思ったよ。怖かった。

 

「理由はどうであれ、厄災をもたらすとされる異世界人ニジアケシを安易に村に入れるわけにはいかない。安全だと証明できなければ、この村からはさってもらう」

 

「村長さん待ってください!」

 

 リナさんは村長さんを説得しようとしてくれたが、睨む村長を前に立った威勢も消し飛ばされていた。

 ……村長怖っ。まあ、他所の人間がきたらどこだってこんな対応をされるよ。魔物がいる世界って怖いけど、物語の中じゃよくある話だし、外でも生きられないことはないと思うんだよね。まあ、大抵は町からスタートしたり、いきなり町の宿に泊まったりできているけど。俺もそんなふうになると思っていたけど、前途多難だな。まあ、普通は作られた物語のようには行かないよな。今の俺の境遇。それが当たり前。俺の元いた世界でもきっと同じことが起こるだろう。それか笑い者にされるかだ。さて、外にでも出ようか。できるだけ遠くへ。

 

「だったら1つ条件がある」

 

 なに! そんなありきたりの物語でいいのか! どうせ魔物を狩ってくるみたいな試練なんだろ。わかっているぞ。さっきの魔物を狩れないことことくらい。

 

「リナ。もしもその男が手に負えなくなったその時は、リナの手で殺せるか」

 

 俺の考えていることとは違った。条件はリナさんに対してか。

 

「そんなこと言われましても……」

 

 何を悩んでいる。たとえ家族であっても、ゾンビになったのなら殺してあげないと。俺だって、リナさんを殺したくはないけど、ゾンビになったのなら楽にしてあげたい。だから、リナさんも悩まずズバッと言ってくれ。

 

「私にはできません……」

 

 何で! 首を切るそれだけだよ。斧でもあれば簡単にできるよ。だから迷わずね!

 

「……私に、人を殺すことはできません」

 

 何を甘いことを言っている。こんな世界んだから、魔物以外にも山賊とかそんな類の人間もいるんだろ。その山賊がどうしようもない人間だったとしても手にかけることはできないって言うのか。それじゃあ、命を落とすだけだ。どこかで割り切らないと。自分の命を守るためには、相手を傷つけてしまっても仕方ないと思わないと。

 

「だったら、認めることはできん」

 

 泣きそうになっているリナさんを見て、俺だってかっこよく何かを言いたかった。でも、他所者の俺が何を言っても信じてくれそうにないし、言うだけ無駄だ。無駄な体力を消費しないためにも、穏便に全て済ませよう。

 

「あ、あの……」

 

 俺がせっかく話出したというのに、チャラそうな若い男が言葉を被せてきた。

 声の大きさに負けた俺の声は、誰の耳にも届くことはなかった。

 

「父さん!」

 

 そうだとは思っていたけど、そうだったのか。

 

「俺からもお願いします。いくら異世界人ニジアケシだからと言って、この人はまだ何もしてないじゃないですか。チャンスを与えてもいいと思います」

 

 見かけによらず案外いい人なのかこのチャラそうな人。

 

「チャンスならさっきリナに与えた。リナはそれを達成できなかった」

 

「リナの性格を知っての試練だったら、受からせる気がないと思います」

 

「当たり前だ。達成してしまったら、この男を招き入れないといけないからな」

 

 不正していることを赤裸々に話すとは。この爺さん何考えているんだか。不正と知っても村長の言葉を否定できないくらいには独裁政治を行ってきたのだろうな。でなければ、ここまで堂々と言えないはずだ。この村ヤバそう。

 

「でしたら。この異世界人を湖畔の小屋に住わせるのはどうでしょうか。あそこなら、何かあったとしても、問題はないはずです」

 

「でもあそこは、村の外じゃないですか!」

 

「村の外ではあるけど、魔物が現れることはほとんどないし、村の外では1番安全だ」

 

 会話に入りたいけど、言っていることがさっぱりすぎて、何もできない。何を言っているのかさえわからない。

 

「でも、アユムは何も知らないから危険ですよ」

 

「それしかないんだ。彼をこの村に住まわせるにはそこしかないんだ」

 

「だったら私の家に……」

 

 リナさんと村長息子のターンだったのに、村長が割り込んだ。

 

「それはできない。残念だが、村の中で住まわせることはできない」

 

「だったら私も……」

 

「リナ。それは容認できない」

 

「はい……」

 

 リナさんは大人しくなった。また座って。どうやらリナさんは感情的になると立ってしまう癖があるようだ。かわいい子は何をしてもかわいい。シュンとしていてもかわいい。

 

「リナ。小屋の地下には非常時のシェルターがある。人1人が暮らすには十分な広さがあるから大丈夫だよ」

 

「そんなのがあるの?」

 

「ああ、知っている人は少ないけど」

 

 村長の息子有能かよ。めっちゃいいやつじゃないか。ヤンチャなやつだとか疑ってごめん。でも、見かけも大切だから。そこだけは理解してください。

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