狩りの時間
「な、なんでこんなことになってるんですか~!?」
「言ったでしょう、素材を取りに来たと」
飛び散る鮮血で似生の槍とドレスが紅に染まる。
返り血、返り血、そして返り血。
強靭な魔物の群れを相手に、似生はただ一撃も受けずに舞い闘う。
「オリーブさん、落ち着いてくださいな。ここのモンスターは見た目こそ厳ついですが、実力は大したことないようですもの」
「そ、そうなんですか……?」
「ええ、普段私が雪山で間引いてるウサギや雪だるまと同程度ですわね。オリーブさんでもきっと余裕ですわよ」
「雪山のウサギと……同程度……?」
ウサギと雪だるま……それはもしかして、
ここは
わたしはただただ戦慄を禁じえない……魔物でなく、似生華という名の姫武将を超えた規格外に対して。
オリーブこと古田織部は千利休の弟子であり、同時に広大な領地を治める姫武将でもある。
姫武将でも名のある上澄み。その自分から見ても、目の前の存在の戦闘力は埒外だった。
「ええと……わたしでも倒せるコツとかあるんでしょうか……?」
「ええ、簡単ですわよ。実は私、ちょっとしたズルをしていますの……あまり広まるとかっこ悪いので、秘密にしてくださるなら教えて差し上げますわ」
「ぜひ! ぜひ聞きたいです!!」
龍砕軒の強さの秘密。その一旦が知りたくて、危険を承知でこの任務に志願したのだ。
はたして、その原理とは――
「これ、実は『十八般武器』というスキルの自動戦闘ですの。取るだけで誰でも達人の動きが出来る神スキルなのですわ〜!」
「十八般武器のスキルを……取る『だけ』……?」
「ね、びっくりするほど簡単でしょう?
直江に教えた時も同じ表情で、他言無用にしろって言われたんですのよね」
「え、ええ……それは確かに、他言無用にすべきかと……」
十八般武器のスキルを取れば自動で達人の動きで敵を屠れる。なるほど確かに言っていることに間違いはなく、わたしもそのスキルを取れば同じように出来るだろう。
問題は、そのスキルの習得条件。
十八般武器とは、十八種の武器全てで達人級の動きが出来る者にのみ習得出来るスキル。歴史上でも数人しか習得者が居らず、存在も伝聞で伝えられるのみ。
確かに、取れば自動戦闘効果で無意識でも戦えるメリットはあるが、本質的には取れるようになった時点で貴重なスキルポイントを1点使ってまで取る必要のない、称号のようなスキルなのである。
「ちなみに……そのスキルはどうやったら取れるようになるんでしょうか……」
取れる時点で既に達人のスキル。
本来は十八種の武器スキルをマスターした者のみが手にする奥義。
いやしかし、あるいは、もしかしたら、ズルして取れる方法があるかもしれない。
万に一つの可能性に賭けて尋ねると、意外にもその万に一つは訪れた。
「ふふ、実は直接習得する方法があるのです」
「そ、それはどうやって!?」
「習得条件はご存知かしら? 『十八種の武器全てで達人級の動きが出来ること』なのですが、この『出来ること』というのがミソなのです」
「えっと……? だから、その動きができなきゃいけないんですよね?」
「ええ、『出来る』ならば『身につけて』いなくてもよい、動作精度と再現性があれば習得出来るのですわ」
出来るならば身につけていなくともよい――なるほど、十八般武器とは達人の動きを自動で再現するスキルだ。であれば、型を知らなくともその動作を行える性能があればよい。
いや、待て。しかしそれは――本来、型とは無窮の鍛錬を繰り返すことで、ようやく髪一本の狂いもない再現性を確保するものだ。型無しであらゆる動きの再現性を確保することは、型の習得とは次元の異なる難易度。
「それって……あらゆる動きが髪一本の精度で出来るってことですよね? そんなこと――」
「あら? そこまで分かっているなら簡単でしょう?」
似生華は優しく微笑み、答えを告げた。
「制御魔術はご存じでしょう? 肉体やモノの制御を補助する魔術。それを習得すればいいのです! 身体をミクロン単位で操作できればそれでいいのですわ!!
しかもミクロンオーダーなら必要なスキルレベルは6、極振りの必要すらありませんことよ〜」
「なるほど……ですね……」
制御魔術レベル6……?
魔術の習得資格とは、スキルの習得資格とは、概念の理解である。つまり似生華とは、髪の毛一本の制御という概念を……いや、口振りから言ってそれ以上の精密制御の概念を理解しているということ。
髪の毛より細い世界の制御?
一体どんな世界で、そんな制御をしてどんな得が??
似生の舞を眺める。魔物の群れは既に群れと呼べぬ数になっており、
最後の一匹に向かって槍が大ぶりに振り抜かれて行く。
こうしてわたしの好奇心は、龍砕軒の強さの秘密を……よりありえない化け物ぶりを認識させられる結果を呼び起こしただけの結果に――
「――ッ」
最後の一匹に槍を振り抜いた瞬間。
慣性が乗り切り、槍を引き戻せないその刹那。
似生はなにかに気づいたように、後方へと視線を向ける。
つられてわたしも視線を向ける。
そこに居たのは、銃を持った小型の鬼。
「デスアサシンガンナーゴブリン!?」
思わず口をつく、最悪の魔物の名。
ガウタマウンテンにのみ生息する、強者を暗殺することを生きがいとする存在。
それが姿と表すのは、確実に仕留められるタイミングのみ。
いかなる達人であれども行動が間に合わないその瞬間に。
無慈悲な銃声が鳴り響いた。
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