ニーズでソリューションをイノベーション
「華さん~、もう手がガジガジですよ~!
いつまでこんなことするんですか~!?」
千利休の茶室を出て数日。私は千利休の弟子のオリーブちゃんと共に
、秀吉様の新人侍女としてひたすら洗濯をしていた。
「千利休様の紹介状で無理やり侍女になったかと思えば派手に挑発して先輩方の不興を買うし! そのせいで真冬に洗濯やらされるし!
華さん、いったい何がしたいんです!? そろそろ教えてくれないと、いいかげん私もぷんぷんですよ!!!」
オリーブちゃんは頬を膨らませるが、もちもちとしたほっぺたにふわふわとした緑髪があわさりただただかわいい。
「秀吉様のかっこいい装備を作るんじゃないんですか!?
もうあんまり時間も無いんです、必要な調査だとしても何やってるかくらい教えてくださいよ~!」
洗っていた下着を握りしめ、上目遣いで私を睨むオリーブちゃん。
眦を吊り上げ睨む姿すらちっちゃくてかわいいなぁ。
もうちょっとこの姿を眺めていたいところだが、時間がないのは事実。
ちょうど調査も終わったところだし、切り上げることにしよう。
「ええ、調査はこれで終わりです。何をしていたか教えましょう」
「ホントですか!? いったい何を調べてたんです?」
「何って、ソレですわ。貴女が握りしめているでしょう」
「……? この下着、ですか?」
オリーブちゃんはまじまじとパンツを見る。
ああ、やっぱり分かってなかったか。
「すぐに握りしめるのを止めて、シワを伸ばした方がいいですわよ――秀吉様の下着ですわ、それ」
◇ ◇ ◇ ◇
天下人の下着だ、洗っている最中に傷つけたりしわくちゃにしたら一大事である。
だから私はわざと先輩侍女達の不興を買って、洗濯の仕事を押し付けさせたのだ。
「そういう大事なことは早く言ってくださいよ!!」
都を出て街道を歩いてしばらく。
周囲に人が居なくなったのを確認して、オリーブちゃんは叫んだ。
うーん、真面目だなぁ。
「それで結局、何を調べてたんです?」
「それはもちろん、秀吉様の下着ですわ。顧客のニーズを深掘りしてこそデザイナーはソリューションをイノベーションですのよ」
「そりゅ……? いのべ……?」
「オリーブさん、秀吉様って普段どんな色の服を着ているかしら」
「それはもちろん、天下人らしいド派手なお召し物です。特にお好きなのは金ピカですね、ほとんどいっつも金ピカの着ていたと思います」
「ええ、秀吉様と言ったら金ピカ。なので下着も金ピカかと思ったのですが――」
「そ、そうなんです! だからわたしも、高級な下着だとは思ったけど秀吉様のだとは思わなくって――」
そう、秀吉の下着は金ピカではなかった。
これが分かった事実の一つ。
「そうですわね、金ピカではなかった。では何色ですか?」
「ええと、確か色は2種類、地味な茶色と派手な赤色でした――あっ、ということは!」
オリーブちゃんは閃いたとばかりに胸を張る。
「秀吉様は本当は赤が好きなんですね!
ということは今わたし達は、赤い衣装の素材を手に入れに向かってるってことです」
「50点。素材を手に入れに向かっているのは当たりです」
「えっ? じゃあ、好きな色は茶色ってことです?」
「それもハズレですわ。オリーブさん、重要なのは色そのものではないのです」
オリーブちゃんは頭にハテナを浮かべている。
分かってしまえばなんてことない話なのだが、今の秀吉像を知っていると先入観に惑わされるかもしれない。
「簡単なことです。茶色の日は茶々様にお会いしていた日で赤色の日は淀君にお会いしていた日。秀吉様は会う人に合わせているのです」
そう、秀吉様は現在周囲に見せているイケイケな人物像と異なり、非常に細やかな配慮の人物。
「恐らくあの金ピカの衣装だって、民が求める秀吉像に合わせて着ているだけ。
だから――」
だから、そういう人物だからこそ、大宴会というハレの場で何を求めるかを推理し想定し想像する。
「飾り立ててやるのですわ、民が求め、己が求める真の秀吉像ってヤツを」
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