黒ゴス少女 千利休
「未だ伝説のファッションスター、似生様。お招きできて光栄でございます」
「へっ!? あ、いえ、その。ありがとうございますですわ?」
2畳もない狭い空間に置かれたL字ソファ。当然、2人で座れば吐息が聞こえるほどの距離となる。
美少女に、しかも歓迎ムーブで招かれて、私は動揺していた。
「これが利休殿の茶室……話には聞いていましたけれど、その、近いですわね」
「ええ。心の距離を縮めるには、まず体の距離からと考えておりますの」
千利休は私の目を見つつ微笑を浮かべる。
己の美しさを自覚し、どうすればより美しく見えるかを理解している微笑み。
確かにこんな至近距離で美少女を接種してしまえば、その、心がやばい。
「ご歓待預り光栄ですが……ここまで饗される理由が思いつかず、戸惑いますわね」
アフタヌーンティーセットが置かれた丸テーブル。
そこに置かれた菓子は、私が都に居たときには見たことのない代物だった。
間違いなく千利休直々に作らせた最新のスペシャリテ。
自分で招待したとは言え、地方の一食客を
「まあ、まあ、ご謙遜を。わずか数年で都一のデザイナーになり、地方に雲隠れしたと思えば未だに斬新な調度品を生み出し続ける稀代の天才。『大ふへん者』の似生様と言えば、侘び寂びを超える普遍を創造する名と、未だに巷で囁かれているほどですのに」
「お、おほほ……そんな昔の名前が残ってるだなんて、恥ずかしいですわね……」
大ふへん……そういえばそんな名乗りをしたこともありましたわね。
ふつーのカラフルな服を流行らせたい程度の考えでふへんと名付けたものの、冷静に考えたらお上の文化戦略に真っ向から反逆する名乗り。都落ちついでに忘れた黒歴史のつもりだったが、まさかまだ使われているとは。
「実は近々、秀吉様が大規模な宴会を開く予定ですの。それもただの宴会でなく、秀吉様の新時代を見せつけるための大宴会。であればデザインの上でも、新たな風を演出する必要がありますわ」
千利休の両手が私の手のひらを包み込み、黒曜石のような輝きの双眸がまっすぐに私を見つめる。
「ぜひ、似生様のお力をお借しいただきたいのです」
囁かれる真摯な声に心臓が高鳴る。
彼女の真剣な訴えを聞いて、私は――
「いや貴女そういうタマじゃないでしょう。お力借りたいとか、なんの冗談ですの?」
美少女の全身を見る。白い肌に映える漆黒の全身衣装。
千利休は、フッリフリでゴッスゴスの黒ゴス少女だった。ゴス文化が萌芽していない世界に突然変異で萌芽した黒ゴスの大輪。間違いなくこだわりがめちゃくちゃ強いタイプだろう。
そんな子が、大規模な宴会だからって黒と地味色のデザイン方針を改めてカラフルデザインを取り入れる……なんの冗談だろうか。
千利休は驚いたように目を見開き、少しの間の後眉を顰め、
「……ちっ」
「ちっ!?」
今舌打ちしたぞコイツ。
「これで落とせれば話が早かったのですが、さすがに一廉の文化人。審美眼はあるようですわね」
「えーっと、猫かぶってたってことです?」
「器を測っていたと言ってほしいですね。文化人たるもの他人の色香に惑わされるようでは論外ですが、その後の探りあいを色々と考えておりましたのよ……一応私、茶頭ですのに、礼儀がなっていないのでなくて?」
「それは、その、はい……」
いやだって、ツッコミ待ちかってくらい似合わなかったんだもん……。
「作法も何もあったものではありませんが、合格には違いありません。ある意味、話が早くて助かりますわ」
千利休は呆れた表情で、手をひらひらとさせる。
「肩の凝らない会話ができると前向きに捉えさせていただきますわね。
――さて、本番を始めましょうか」
え、偉そうに……実際偉いのですけど……
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