第6話 すごく気まずい

 翌朝。登校して荷物を下ろしたら、いつものようにマリちゃんの席に向かう。


 「お、おはよう」

 「はよー」


 そこには返事をしてくれたツバサちゃんとスマホから目を離さないマリちゃんがいて、やはりメミちゃんはいなかった。

 ちらりと振り返るとメミちゃんは自分の席にポツンと座っていた。目が合った。かと思ったら目を逸らされた。

 どうしよう。すごく気まずい。

 マリちゃんもツバサちゃんも、今の状態が当たり前のような顔で会話している。教室の中の空気は昨日と全く変わらない。その事実が何よりも残酷だった。

 それでも、昨日まで仮初だったかもしれないけれど、素の自分ではなかったかもしれないけれど、曲がりなりにも『友達』として成立していた世界が一夜にして崩れ去ってしまったことに、私は心の底から動揺していた。


 「ね、ねぇ。マリちゃん」

 「なに?」


 マリちゃんは依然としてスマホの画面のスワイプを止めることはない。


 「き、昨日なにかあったの────」

 「今日さぁ」


 遮られた。私の声はマリちゃんのスマホが机に置かれる音にすら負けた。


 「帰りどっかいこ。たしかスピカさぁ、水曜は塾休みって言ってたよね」


 今日は水曜日だ。水曜日が休みだと言ったこともある。マリちゃんが私の発言を覚えていたことに私は驚いた。私は反射的に「う、うん。いいよ」と頷いた。


 「おっけ! あたし彼氏の誕プレ選びたくてさ。意見聞かせてくんねー?」


 マリちゃんは屈託のない笑みを浮かべた。

 その瞬間、私はメミちゃんのことを頭から追い出していた。

 始業のチャイムが鳴った。私は自分の席に戻った。

 途中、出原さんと目が合った。

 彼女は私をずっと見つめていた。

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