第3話 響き出す未来への音色

彼の歌声を聞いてから数カ月が経った。その間も月に一度の訪問を続け、少しずつ彼との会話の幅が広がっていった。最初は短い返答だけだった彼が、自分から歌について話したり、好きなアーティストの話をしてくれるようになったのだ。その変化に私は心の中で小さくガッツポーズをしていた。


ある日、友人と彼の今後について話をしているときに、ふと「音楽を学べる環境があれば、彼に自信を持たせるきっかけになるかもしれない」と思いついた。これまでの訪問で、彼がどれだけ音楽に敏感で、才能に恵まれているかを感じていたからだ。友人にその考えを伝えると、彼女は少し迷った様子だったが、「それがこの子にとってプラスになるなら、試してみたい」と前向きに答えてくれた。


次の訪問の際、私は彼にこう切り出した。「もし、もっと歌を歌いたいなら、専門の先生に教わることもできるけど、どう思う?」彼は少し驚いたように目を見開いた後、「僕にもできるかな……?」と小さな声で聞いてきた。その言葉に、私ははっきりと「もちろんだよ!」と答えた。


彼はしばらく考えてから、「ちょっとやってみようかな」とつぶやいた。その瞬間、私は心の中で大きくガッツポーズをしていた。彼が自分から何かに挑戦しようと思えたこと。それは、彼の中に小さな自信が芽生え始めた証拠だった。


その後、友人と相談し、最初は自宅で楽しめる音楽アプリを試してみることになった。彼は自分のペースで録音や編集を楽しみ、少しずつ歌を披露することにも慣れていった。歌うことが彼にとって楽しみになり、彼の表情も明るくなっていった。


学校にはまだ通えていなかったが、彼の歌声は少しずつ彼自身の世界を広げていた。歌うことで自分を表現し、家族と共有することで新たなつながりを生んでいた。彼の声には力があった。それは、彼が閉ざしていた扉を自ら開こうとする力だったのかもしれない。


この経験を通じて私は思った。どんな子どもにも、その子だけの「光」があると。たとえそれが今は見えなくても、寄り添い、信じて支え続けることで、いつかその光が輝き出す瞬間がある。彼の歌声は、私にそれを教えてくれた。


扉の向こうから響く彼の歌声が、未来へと続く希望の音色となることを、私はこれからも願い続ける。彼が自分の音楽で、新しい世界を描いていける日を信じて。

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閉ざされた扉の向こうに響く歌声 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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