サンタクロース適性試験
会場はスタジアムだった。
有限会社がスタジアムを借りられるというのは驚きだが、参加者の内容もまた驚かされる。
ぱっと見、高齢者がやたらと多い。しかも男しかいない。
ただ、広いスタジアムなのに、二〇人程度しかいないので、ひどく閑散としているようにも見える。
やがて応募者の前に割腹のいい男が黒服二人を伴って現れた。
「皆様、本日は足をお運びいただき、誠にありがとうございます!」
割れ鐘のような声とはまさにこのことだろうと言わんばかりの大音声ではあるが、耳の遠くなった老人たちにはこの程度がちょうどいいらしい。思わず耳を押さえたのは三太だけだった。
「わたくし、アンリミテッド・サンタクロース・オーガナイゼーションの代表を務めます鯖江鯖人と申します! 皆様の試験に立ち会うこととなりました。どうか、よろしくお願いいたします!」
参加者からまばらな拍手と感嘆の声が聞こえる。
「おお、あれが鯖人さんか。お若いのに立派なことだ」
若いと言っても、三太の目からは鯖江は五十代に見える。もっとも、参加者の大半からすれば、若いのだろうが。
どうやら参加者の間では有名な人物のようだ。知らぬは三太だけというわけである。
「それでは早速ですが、テストを行いたいと思います! サンタクロースは一に体力、二に体力と申します。それ故、皆様にはトラックを限界まで走ってもらいます!」
本当にサンタクロースの仕事であると思わなかったので、三太は驚いた。てっきりサンタクロースのコスプレをして、ケーキ屋で販促の仕事をするのだとばかり思っていたからだ。これで百万保証とか最高すぎるなどとも思っていたのだ。
だが、そこはいい。このテスト、老人たちには過酷なのではないか。このうち何人が限界を超え、旅立ってしまわれるのかなんてことを考えたら、恐ろしくもなる。
ただ、三太の憂慮を余所に、試験は始まってしまった。
正直、スーツと革靴で長距離走をするのはかなりきつい。革靴なんて、走るために作られていないから、足の裏が徐々に痛みと熱を帯びてくる。
長距離走なんて久しぶりだから、トラック一周回るだけで息が切れた。
しかし、この試験に合格し、百万円をえるためにも今ここで全力を出さねばならない。今日この日、このときのために生まれてきたのだと自分に言い聞かせ、とにかく足を交互に前に出していく。
それからどのくらいの時間が経ったのか、わからない。意識は朦朧とし、走ると言うよりはほぼ歩いている状態だが、ともあれ前には進んでいる。
他の参加者はすでに座っていたり、中には倒れているものもいるが、もはや三太の目はトラックの白線くらいしか見えていない。
もう百万円というご褒美だけでは気力も続かなくなってきて、もう倒れ込んでしまおうかと思ったとき、ついに待ち望んでいたときが訪れた。
「テスト終了です! お疲れさまでした!」
時を告げる天使はずいぶんとダミ声なのだと、意識の隅に思いながら、限界を迎えた三太は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
そこを鯖江がさっと受け止め、転倒を防いだ。
「ふむ、見上げた若者だ。きっと彼ならば……」
意味深な科白だが、多分たいしたことないだろうとのツッコミを入れてから、三太の意識は闇へと溶けていった。
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