聖夜の闇バイト

秋嶋二六

絶望の三太

 三太は途方に暮れていた。


 今朝、いつものように通勤したら、会社がなかったのだから。


 デスクとチェアが並べられていたフロアは蛻の殻。盗難だとしたら、いっそすがすがしくさえある。


 床に残されたのは埃と一枚の紙切れ。そこで社員は事情を知った。


「当社は十二月一日をもって倒産いたしました。社員の皆様におかれましては今後ますますのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます」


 これだけである。


 会社の資産はともかく、社員の私物すらなくなっている。売られたか、処分されたか、いずれにせよ犯罪ではあるが、社員をだまし討ちするような上層部が今さら法やモラルを気にするはずもない。


 当然、今月分の給料も支払われないことだろう。今後は管財人の処置に期待するほかないが、多分望み薄だ。


 フロアの各所で仲のよい社員が固まって、怒声を上げたり、嘆いたりと、自身の心情を表すのに忙しい。


 取引先にも連絡しなければならないが、幸いと言うべきか、三太は社内での業務だけだったので、引き継ぎの作業からは解放された形となった。


 このままいても埒があかない。そう思った三太は外に出た。出たところで何かが変わるわけでもないが、社内に残るほうが気が滅入る。


 あてもなく歩き出したが、足は近くの公園へと向かっていた。無意識のうちにあいているベンチに座ると、スマホを取り出し、求人情報を漁った。


 すでに貯金は底をついている。当面の生活費を稼ぐ必要があるのだ。


 この三太という男、地味な風体の割に浪費癖があった。宵越しの金は持たぬと江戸っ子みたいなことをほざくが、実はこの男、埼玉県出身である。


 産地偽装を指摘すると、臆面もなくこう答えるのだ。


「江戸って武蔵国にあっただろ? 埼玉も武蔵国だったから、実質江戸ってことじゃん」


 この屁理屈に時折納得するものがいるのだから、何とも恐ろしいことだ。


 さて、切実な形相で画面をスワイプすること数分、なかなか条件に合う仕事が見つからない。


 なるべく高額で、拘束時間も短いのがいい。やりがいを感じられればなお良い。


 そんな都合のいい話があるわけがないと常人は思うだろうが、追い詰められたものはえてして常識を凌駕してしまうものだ。


 そして、三太は見いだした。理想の仕事を。求人票にはこう書かれている。


「あなたもサンタクロースになりませんか?」

「最低百万円保証」

「アットホームすぎて、まるで自宅のような安心感」

「夢と希望を子供たちに」

「有限会社アンリミテッド・サンタクロース・オーガナイゼーション」

「代表:鯖江鯖人」


 何をどう見ても、怪しさ敦盛だが、今の三太には最低百万円保証しか見えていない。


 面接日時は今日の午後、面接会場はすぐ近くとなれば、もう行くしかないではないか。 三太は運命を感じ、足早に会場へと向かうのだった。


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