幻想世界

とろり。

1話完結 幻想世界


 雪が降り始めた。空から降る雪がこの街を白く染めていく。

 寒い雪の中、少女は少年を待っていた。しかし約束の時間に少年はやって来なかった。少女は電車が止まったのだろうと考えながら、足下の雪を手でかき集めた。

 小さな雪だるまが出来上がった。しかし飾りは無い。白い雪玉が大小二つ重なっているだけだった。

 かじかむ手をポケットに入れ、雪が止んだ空を仰ぐ。夢だろうか、少女は優しい無数の光を見た。それは天と地の間に挟まれ、揺れる。

「ああ、あの日もこんな日だったっけ……」

 少女は呟くと、その光たちに見とれていた。


 ラインは既読にならないし、返信も無い。約束を忘れているんじゃないか、と不安になるけれど、少女はどこか少年がここにやって来ることを期待していた。

「雪が止んだんだから、当然……」

 分からなかった。少年のことなんて正直、分からなかった。


 スマホにニュース速報が流れた。電車の事故だった。しかも、少年が乗る予定だった電車。少女はラインを開くと「大丈夫?」と送った。けれどやはり、既読にはならなかった。


 光が沈んだり浮いたりを繰り返し、ふわふわと宙を舞う。光は時折ぶつかったりしながら、それぞれの光度を上げていった。


「よっ」

 いきなり後ろから声をかけられた。少女の待っていた少年だった。少女はホッとして微笑んだ。


「あれ、見える?」

 少女が振り返るとすでに光たちはその姿を消していた。何だったんだろう、と不思議に思いながら、少年に振り返ると――


 頬に触れる少年の唇。少女は戸惑い、照れながら、少年に抱きついた。


 雪がまた降り始めた。空から降る雪がこの街を白く染めていく。

 少女は少年に告白をした。けれど返事を聞くこともなく、少年の姿は光の粒子となって消えていった。


「ああ、あの日もこんな日だったっけ……」

 少女の目の前には光たちがふわふわと舞っていた……。

 時間だけが少女の永遠の幻想の中を廻る。永遠に続くメビウスの輪は解けないままに、少女は光の街に眠る……。



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最後まで読んでくださってありがとうございました!

m(_ _)m



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