第2話放課後

夕方の補習が終わり、教室の連中は部活やその他の活動の為に、真由美と恵だけ残っていた。

自販機で買った、パックのいちごミルクを飲みながら。恵はマシュマロを買っていた。

「あぁ〜、彼氏欲しいなぁ〜。ねぇ、真由美。うちの学校のイケメンは尽く彼女持ちだからね。この青春時代に勉強ばっかじゃつまんない。弓道部は吉永君がいるけど、麻美の彼氏でしょ?井手君はファンが多いし、まさか、植木君はねぇ〜。カッコいいけど変人なんだよね。赤ちゃんプレイとか強要しそうで怖い」

と、三谷恵はマシュマロを口に放り込んだ。

「今日、部活で植木君と話そうと思うの」

「え?マジ!真由美。あんなん、変人と喋ると馬鹿が移るよ」

「アハハハ。大丈夫。この前、お父さんがビールのおつまみって言うから珍味食べたけど、美味しかったもん」

と、真由美はいちごミルクを吸った。

「……あれ、真由美は今日は熱があるのかな?」

と、恵は真由美のおでこに手を当てた。

「……私、なんか変な事言ったかな?」

「保健室行こうよ」 

「大丈夫、大丈夫」

と、言うが保健室に2人は向かった。保健教諭は、山下と言うおばちゃんだが、ダイナミックな体型をしているので、キャサリンと呼ばれていた。

「キャっサリーン」

「あら、どうしたの2人して」

「キャサリン、今日は真由美が変なの」

「どうしたの」

「私は至って健康です」

「真由美が、あの植木君と仲良くなりたいって言うんです」

キャサリンは笑いながら、

「植木君?あ、あの変人の男の子ね?あの子は風変わりだけど、知ってる?家事は彼がしているのよ」

「どういう事ですか?」

「誰にも言っちゃダメよ。分かった?」

「はい」

「はい」


キャサリンは、2人に冷蔵庫から麦茶を取り出しグラスに注ぐ。

「植木君ちはね、お父さんが長距離トラックドライバーで家には殆どいなくて、お母さんは病気で寝たきりなの。だから、掃除洗濯、弟の食事は彼が作っているのよ。変わった子だけど、苦労人なのよ」 

2人は黙り込んでしまった。


「女はね、見た目やウワサだけで振り回されているようじゃ、大人になれないわよ」

キャサリンは、2人に色々と語り、17時半を過ぎたので、弓道場に向かった。

キャサリンの言葉の後に、植木の変人扱いは辞めようと約束した。

しかし、彼のプライベートの話しは口止めされていたので、対応だけは不自然にならないように気を付けた。


1年生は的の土手(安土)を成形しており、2年生は穴の空いた的に新しい紙を張り付けて的張りをしていた。

「いいな、お前ら。殿様出勤で。殆ど仕事は終わったよ」

と、吉永が言った。

吉永は麻美の彼氏だ。

植木は、正座して的張りの糊を練っていた。


「お疲れ様、植木君」

真由美は植木に声を掛けた。

「パンの耳とバナナと牛乳の離乳食食べたい?」

「え、何の事?」

「誰かが、オレが妊娠させたってデマを流しやがって、離乳食のレシピを知りたいだけだったんだ」

「……離乳食は食べないけど、デマは許せないね」

「後、妊娠中のセックスは激しくなければ良いらしい」

「ち、ちょっとその辺は分かんない」

「ま、いいや。あっち行って良いよ」 

と、植木は糊を再び練り始めた。


更衣室

「やっぱり、植木君は変人だね?」

「……」 

「イケメンだけど、だいぶ変わってる。あぁじゃないと、家事と勉強の両立は無理なんだろうね」

「うん。明日は教室で声掛けてみる」

「……ま、まさか、真由美、植木君の事が好きなの?」

「分かんない」

「否定しないなら、好きって事ね」

「多分」

「良いよ。応援する」

「ありがとう」


2人が着替えて、道場に出ると植木は帰っていた。

植木はこれから、晩ごはんを作らなければいけないのだ。だから、部活はいつも18時までであった。

真由美はそう言う事なら、もし、仲良くなれたらご飯を作ってやりたいと考えていた。

料理には自信があるのだ。

それに、彼は朝は新聞配達で小遣いを稼いでいた。

平成のこの世の中で、こんな家庭はゴマンといるらしいが、それが植木だから何か他人事でならない気がしてきた。

お母さんは、調子のいい時は自分で料理をするが、実際は殆ど寝たきりで、朝晩は植木が作り、昼はパンを食べているそうだ。


入院すると、お金が掛かるから自宅で過ごしている。

真由美はその細かい事は知らない。


その日の晩ごはんは、お母さんが作ったハヤシライス。

妹は学習塾でいなかった。

お母さんに植木君の話しをした。

「真由美、そんな子なら安全だから、今度の週末、晩ごはんを作りに行きなさいよ。泊まっても良いわよ。子供は作っちゃだめよ、練習は良いけど」

と、母親は缶ビールを飲みながら言った。

「ちょっと、変な事言わないでよ」

「パパも許すと思うから、泊まって来なさい」

「旅行用のシャンプーセットと、歯磨きセットを持って泊まるからね」

「好きにしなさい」

「でも、植木君、了解するかな?今まで、殆ど喋った事無いのに」

「その、Dカップを強調しなさい」

「お母さん、もう、オッサンが言うような事言わないでよ」

「メンゴメンゴ」


真由美はベッドの上で考えていた。明日は水曜日。説得するか。お手伝いしたいと。

植木君の。

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君とわたしのオクラホマミキサー 羽弦トリス @September-0919

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