君とわたしのオクラホマミキサー

羽弦トリス

第1話噂の男子

「お姉ちゃん、もう起きないと学校遅れるよ!」

と、中学生の浅見いずみは言いながら、着替えをしていた。

「う、う……ん~~ヨシッ!」

と、布団から這い出たのは、浅見真由美。

彼女は大田口高校普通科2年。

所属は弓道部。文系だ。

彼女と妹は、母親が作った朝ごはんを食べて、妹は自転車で学校へ。真由美は、バス停まで歩き、7時6分のバスに乗って高校へ通う。

途中、あるバス停で男子高校生が2人乗ってくる。

2人とも背が高く、田舎の高校生にしてはイケメンの部類。

いつも、女子らは2人の男子で好みを言う。

「私は田口君だな?真由美は?」

「……植木君」

「そうなんだよね。田口派と植木派に分かれるんだよね。背丈は同じで、田口君はバスケ部で、植木君は何の部活だっけ?」

「麻美〜、私と同じ弓道部だって何回言えば良いのよ。このババア!」 

真由美は、植木を眺めていた。

植木は、メガネを掛けていて、手にはたまごクラブを持っている。

周りは、植木は誰かを妊娠させたと言われていた。

田口君はスポーツマン、植木君は変人扱いされていた。

だが、部活で真由美は植木とあまり喋ったことは無い。

二段の腕前は確かで、去年の地区大会で1年生ながらも個人戦で優勝している。

インターハイでも、結果を残している。確か、3位だったか?


バスに乗って50分、高校近くのバス停でぞろぞろと生徒は降りた。2年3組。文理特進クラス。このクラスからは、かなりの有名大学に進学している。教室に着くと、既に数名のクラスメイトは参考書を読んでいた。

麻美は2組だから、隣りの教室に。

「おはよう、真由美」

「あ、おはよう恵ちゃん」

「3組だけ、朝補習って差別だよね?……ねえ、真由美、あれ見て」

2人の目線の先には、植木がいた。

教室でも1人、たまごクラブを読んでいた。

「ねぇ、真由美。植木君って、誰を妊娠させたの?」

「……知らない」

「でも、たまごクラブ読んでるだけでも、彼は相当変だよね、で、それでいて学年5位って植木君は天才なの?変人なの?」

「……変人は……間違えていないよね」

「真由美も気をつけなよ。ああ言うのが一番怖いから」

「うん」


「よっ、植木」

と、植木に声を書けるやつがいた。

「まだ、たまごクラブ読んでるの?」 

「いや、妊婦に優しい食事の調理法が載っていてね。勉強になるんだ。お前も読むか?井手」

井手大介。

彼は、サッカー部のイケメンでもちろんこのクラスだから頭も良い。

「植木、お前、植木健一は女を妊娠させたってウワサが広まってるから、その本は自宅で読めよ」

「心配ない。家には、ひよこクラブ、こっこクラブがある」

「……ん?お前は、変わってんな。ま、昔から知っているけど」

そこにもう1人加わった。

吉永直樹だ。

「よっ、健ちゃんパパ」

「何だよ、吉永!オレは料理レシピに興味あるんだ!今夜は、離乳食を作る」

「作って何をすんだ?」

「食ってから、勉強」

「ほどほどにな?変人さん」

「うるせぇ、お前、今日は的張りだからな」

「そうだな、3年も今度の地区大会で引退だもんな。また、お前、個人戦出るのか?」 

「もちろん」

「2連覇かぁ〜」


キーンコーンカーンコーン


3組の朝補習が始まった。

真由美は、後ろの窓側の席から黒板ではなく、1人を見つめていた。

そいつは、必死に英語教諭が板書した言葉をノートに書いていた。

時折、メガネを外して目を擦っていた。


そう、真由美は植木に恋心を抱いていたのだ。

5月の蒸し暑さが感じられるこの季節の朝に、心地よい風に晒されて、今日の部活で植木に話し掛けようと決意したのだった。


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