第十五話 ロドリゲス公爵の気遣い
「婿というのは、ただでさえ気を使うものだからね。いきなり本館で暮らし始めるよりも良いと思うのだよ。慣れない家で気を使わせるのは可哀そうだろう?」
アイーダには全く納得できないことであったが、サイモンは【良いこと言った自分】と自らを褒め称えているかのように頷いている。
「婿取りする側としても、カリアス君に対して最大限の敬意を示さねば」
「それが護衛騎士団の寮での生活というのは、少々おかしいのではありませんか?」
「いや、そんなことはないよ。アイーダ」
サイモンは人差し指を立てて、チッチと横に振った。
アイーダは、いちいちムカつく反応をする父を睨みながら言葉の続きを待った。
「彼は護衛騎士として生きるために、様々な訓練や教育を受けてきたのだ。そして結果も出している。カリアス君のプライドは、護衛騎士の仕事と密接に結びついているのだ。だから彼のプライドを傷つけないためには、まずは我が家の護衛騎士団で立場を作るのが手っ取り早いんだ」
「私の夫になるのに、護衛騎士団での立場なんて要りますか?」
不満そうなアイーダに、サイモンは【お前もまだまだだな】と言わんばかりの視線を投げた。
「男にとってプライドを保てる居場所というのは、なかなか侮れない価値あるものなのだよ」
キッと鋭い目つきで睨んでくるアイーダに、サイモンは余裕のある笑みを向けた。
「この仕事なら務まる、という自信をつけてもらってから、婿としての教育を施すつもりだ。あちらも伯爵家で一通りの基礎はあるはず。上手に弾みをつけてからなら、さして苦労なくロドリゲス公爵家の婿として必要な知識を身に着けられるだろう」
父は自分の案にご満悦だったが、アイーダは不満だった。
(そんな
そう思ったが、ロドリゲス公爵家にあっては、当主である父の決定は絶対である。
「はい、承知いたしました」
アイーダはそう言って、その場を去るしかなかった。
(まぁ、お父さまの言うことにも一利あるわね。万が一にも、カリアスさまが伯爵家へ逃げ帰るようなことになっては、元も子もないもの)
アイーダは、しおらしく父に従ってみせたものの、だからといって何もしないとは言ってはいない。
(黙って待ってるなんて私らしくないわ)
とはいえ、淑女の枠からはみ出しすぎるのも問題がある。
(ほどよい所なんて私には見極められないから。仕方ない。ここはエドワルドに相談ね)
アイーダは自分付きの執事であり、ロドリゲス公爵家の執事としては見習いの、エドワルドの柔軟な頭脳を頼ることにした。
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