第十六話 アイーダは待ちきれない
アイーダは自室に戻ると、忠実な執事に訴えた。
「ということなのよ、エドワルド。お父さまの考えは分かったわ。でも、私は待ちきれないの」
「分かります、お嬢さま」
アイーダから説明を受けたエドワルドはウンウンと頷いた。
「同じ敷地内で生活するというのに、会えないというのは嫌ですね」
「そうでしょ? おかしいわよね」
アイーダはプッと頬を膨らませた。
「お嬢さま、その顔は見られないようにされたほうが……」
「淑女らしくないから?」
「はい、淑女としては落第でございます」
アイーダとしては、なんだか淑女めんどくせーな、という気分になっているので落第でもいいですという気持ちもあった。
「カリアスさまの愛を得るには、外でなさらないほうがよいかと」
「あっ、それもそうね」
目的を果たすためには手段にこだわっている場合ではない。
「せっかくカリアスさまと幸せになれる道が見えてきたのに、壊す必要はないわよね?」
「そうですよ、お嬢さま」
ウンウンと頷くエドワルドを見ながら、アイーダは少し考えてみた。
そして出た結論。
「でも恋する乙女が、近くにいる殿方の姿すら見ずにドキドキしながら過ごす、なんて。ちょっと高度な変態臭さがあるのではないかしら?」
「それもそうでございますね、お嬢さま」
「見たいわぁ~。カリアスさまのお姿が、見たいわぁ~」
アイーダの心からの嘆きに、エドワルドはウンウンと頷いた。
「今日の貴方は頷くだけで役立たずね、エドワルド」
「そんなことを言っていいのですか? お嬢さま」
エドワルドは机の上に、屋敷の全体図をサッと広げた。
むろん防犯のため詳細図ではない。
大まかに描かれた地図には、護衛騎士団の寮や訓練場の位置が記されていた。
「お嬢さまがカリアスさまのお姿を見るには、こちらの方向へ行かなければなりません」
「ええ、そうね」
残念なことに護衛騎士団の寮や訓練場は、敷地内でも裏手にあたり、アイーダの生活圏とは離れている。
「通常であれば行く必要などありませんが、お嬢さまは結婚を控えた身。結婚後は公爵家のあれやこれやを取り仕切ることになられますから、見学の名目で行くことは可能です」
「そっ、そうねっ。その名目なら、私が寮や訓練場に行っても自然よね?」
アイーダの表情がパッと輝いた。
「ですが、何度も見学や視察といった名目を使うことはできません」
「そうね」
アイーダは残念そうにシュンとなった。
「お嬢さまがカリアスさまに嫌われてしまったら本末転倒ですからね。どうすれば自然かつ日常的にカリアスさまのお姿を見ることができるのか、慎重に検討しましょう」
「ええ、そうね」
「とりあえず、このようなものも用意しておきました」
優秀なアイーダの執事はそう言うと、アイーダの前にそっとオペラグラスと双眼鏡を差し出したのだった。
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