第十二話 カリアスが屋敷にやってきた

「ねぇ、カリアスさまは、いついらっしゃるの? エドワルド」

「もうじきかと、お嬢さま」


 アイーダは豪奢な自室で、落ち着かない様子を見せていた。

 ソファから立ち上がったり、座ったり、また立ち上がって部屋のなかを歩き回ったりなど忙しい。

 それもそのはず。

 今日はカリアスが屋敷へとやってくる日なのだ。


「お嬢さま。カリアスさまは、この屋敷に住まわれるのです。到着なされば、いつでもお会いできますよ」

「でもエドワルド。落ち着かないのよ」


 アイーダは窓の外を見ながらソワソワとしていた。


「ちゃんとカリアスさまはいらっしゃいますから……あ、ほら。いらっしゃいましたよ、お嬢さま」

「えっ⁉」


 アイーダは、大きな窓から身を乗り出して、エドワルドが指さす方へと視線を向けた。

 屋敷の門をくぐったカリアスが、馬に乗ってこちらに向かってくるのが見えた。

 

「あぁ、カリアスさまだわっ!」

「お嬢さま、危ないです」

「あんっ」


 エドワルドに体を引かれたアイーダは、変な声を上げながら室内に引き戻された。


「ここからでも充分に見えるはずです」

「そうだけど……」


 アイーダはモソモソと言った。

 大きな黒い馬を操り、屋敷の中へ入ってきたカリアスは軍服姿だ。


「逞しくて、凛々しくて、颯爽としてらして、素敵。もっと見たいわ」

「ふふふ、お嬢さま。大丈夫ですよ。もうじきカリアスさまは……」

「えっ⁉ ちょっと待って⁉ なんであそこで曲がるの⁉」


 クイッと曲がったカリアスの姿を見て、アイーダは声を上げた。


「えっ? 何でしょうね。あっちは屋敷とは方向が……」

「向こうは、使用人たちの部屋のある棟では?」

「あっ!」


 エドワルドは右手で拳を作り、左の手のひらを叩いた。


「カリアスさまは、護衛騎士団の寮へ向かわれるつもりですね」

「はっ⁉」


 アイーダは、エドワルドとカリアスの姿を見比べるようにキョロキョロと交互に見た。


「ちょっと待って⁉ カリアスさまは、私の婚約者としてこの屋敷に来たのよ? なぜ護衛騎士団の寮へ入るのよ⁉」

「さぁ? 私もちょっと意外で……旦那さまに確認してまいりますね」


 エドワルドはそう言って部屋を出ていった。

 後に残されたのは、困惑するアイーダ1人。


「え~? カリアスさまは護衛騎士団に入るの? この屋敷に住んで、一緒に領地経営の勉強をするのではなく? 護衛騎士? ……ん、それはそれで……」


 アイーダの心は、カリアスと一緒に居たいという気持ちと、護衛騎士の制服を着た彼を見たいという気持ちの間で揺れていた。

 

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