第六話 雄っぱい婚約とは?

 そもそも雄っぱい婚約とはなんぞや?


 その由来を正確に知る者はいないが、女性が男性の触ることにより成立する婚約だ。

 雄っぱい婚約とは、雄っぱいという名の通り、胸を触られるのは男性側である。

 逆は認められない。


 独身女性側が独身男性の胸を揉む、そんな愉快な婚約のイベントなのだ。


 この婚約方法が生まれたのは、貴族女性を不埒な男性から守るため、という説もあれば、身分差のあるカップルが親の反対を押し切って結婚できるようにした女神のはからい、という説もあるが定かではない。


 もちろん、その辺の道端でやってはいけない。

 行う場所は神殿で、神官が立ち会うということまでは決まっている。


 しかし例外はあって、その場合には「女神の神託により――――」という前置きが付く。

 実際に神託があったかどうかが大切なのではなく、正式な雄っぱい婚約として認められるかどうかが大切なのだ。

 なぜなら、この雄っぱい婚約。

 とても大きなリスクを伴うものだからだ。


 その辺の道端で、独身男性や独身女性が異性の胸を揉んだりしたら、即死刑である。

 既婚男性や既婚女性が、配偶者以外の胸を揉んだりしても、即死刑である。

 揉んだ側が死刑なら、揉まれた側がどうなるかというと、こちらも前途多難。

 女性ならば修道院送り、男性ならば軍隊に入れられて最前線に送られたりするのだ。

 この世界、なかなかにお堅くて、物騒で、生きにくい。


 ゆえに罪を逃れるため、「女神の神託により――――」という前置き付きで神官が認める場合もある。

 もちろん、その際には多額の金が動くなど、神官側に手厚い仕様がとられるのだ。


 ちなみに、その手のサービスのみ罰則から除外となっている。

 いわゆる娼館と呼ばれる場所はあり、登録済み娼婦相手のみ限定でアレコレすることがオッケーなのだ。

 ゆえに、サービス料金はお高い。


 もちろん、例外というものはある。

 妾や愛人にして囲うという方法だ。

 囲っている期間については明記されていないので、その時間が三十分や一時間でも咎められることはない。

 どの世界でも法の抜け道というものは、あるものなのである。


 そのせいか、だいたい婚約を迎える頃には、男性側には愛人がいる。

 ナルシス第三王子には、ミーシャ・ワイズ男爵令嬢という愛人がいた。


 雄っぱい婚約があろうと、なかろうと。

 貴族女性にとって、誠実な男性を手に入れることが難しいことは、変わらなかったのである。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る