第五話 優秀な執事エドワルド
スラリと背が高く、銀縁眼鏡をかけた黒髪に黒い瞳のエドワルドは、 アイーダが六歳の時からのお世話係だ。
パリッとした白いシャツに黒い執事服姿で、アイーダの側に付き添っている。
身長が185センチほどあるため、六歳児の世話は腰にくる作業であった。
お世話の甲斐あってか、幸いなことにアイーダは順調に育ち、十八歳である現在の身長は168センチほどある。
昔のように抱きあげて運ばなければいけないような怪我もしなくなったし、随分と楽になった。
執事見習いでもある彼が、アイーダのお世話係になったのには理由がある。
アイーダは、公爵家の跡取り娘だ。
ロドリゲス公爵家をしっかり引っ張っていくためには、有能な部下が必要だった。
だからロドリゲス公爵は、若く見込みのあるエドワルドを、アイーダのお世話係にしたのだ。
アイーダの公爵令嬢らしからぬ暴れぶりに対応するためだけではない。
もっとも、エドワルドが娘の筋トレに付き合わされているとは、ロドリゲス公爵は全く気付いていなかった。
エドワルドが、優秀だったからである。
そもそもロドリゲス公爵に、アイーダの真の姿を容易に気付かれるようでは、優秀な執事とはいえない。
エドワルドの美学である。
おかげでアイーダは、両親には秘密にしたまま、筋トレに励むことができた。
頭だけでなく、体もしっかり鍛えた公爵令嬢であるアイーダは、細く引き締まったマッチョな体を手に入れた。
細く締まっていれば、マッチョバレしないかといえば、そうでもない。
なぜら、令嬢につきもののドレスは、全てが誂えものだからだ。
ドレスなどの採寸の時には、外部の者に体を見られることがある。
その時に相手が、
「あの……」
と困惑気味な視線を投げてきたときには、それなりの対応が必要だ。
そんなときのアイーダは、
え? 何か問題でも? 私にはさっぱり分かりませんわ。もしかしたら、生まれつきの体型ではなくて? もちろん、生まれつきの体型を揶揄するような失礼なことを言ったら……分かっていますわよね?
という無言の圧をかける。
アイーダにとって無言の圧をかけることは、赤子の手をひねるよりたやすい。
将来ロドリゲス公爵家を継ぐアイーダにとっては、無言の圧も武器のうちだからだ。
賢く有能なエドワルドの指導により、アイーダは身も、心も、とても頑丈に育った。
とても良いことである。
エドワルドは、銀縁眼鏡の端を指先でクイッと持ち上げて位置を正すと、目の前の光景をしっかと目に焼き付けた。
「お嬢さま……」
彼の敬愛するお嬢さまは偶然にも、自らの運命を自らの手で掴み取った。
エドワルドの目の前で、アイーダの手は、逞しい若者の胸を揉んでいる。
(自らの欲望に忠実なお嬢さま。偶然とはいえ、自らの手で、自分の未来を手に入れたのですね……)
エドワルドは白い手袋をはめた形のよい指で銀縁眼鏡をクイッと持ちあげると、目の端を白いハンカチでそっと拭った。
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