第七話 パパ歓喜

「アイーダよくやった!」


 ロドリゲス公爵家に到着して屋敷に入るなりアイーダは、父であるサイモンがあげた歓喜の雄叫びと共に抱きしめられた。

 大きな手に背中をバンバン叩かれたアイーダは、大きな目を更に大きく見開いて父を見上げた。


「ちょっ……お父さま。痛いですっ」

「おお。強く抱きしめすぎたか。すまんすまん。ハハハッ」


 サイモンは、声を上げて笑いながら、アイーダを解放した。 

 父であるサイモン・ロドリゲスは、七色に輝く不思議な銀髪の持ち主だ。

 現在の国王とは同い年で従兄にあたる。

 王族の血が入っている上に、存在自体が聖なるものであるという噂の七色に輝く銀髪持ちであるにも関わらず、サイモンの性格は聖なる者とは縁遠かった。


「もともと私は、ジュリアスの息子をお前の婿にするなんて、大反対だったのだ。あの金髪碧眼でペラペラの筋肉無し男の息子なんて、ロクなもんじゃない」


 サイモンはスラリと背が高く、なにげに天然細マッチョだ。

 何をしなくても筋肉がついてしまうタイプのため、従兄で王太子だったジュリアスに散々からかわれて育った。

 そのため、現国王であるジュリアスのことが大嫌いなのだ。


「それなのに我が家には金があるからと、役に立たない第三王子を押し付けやがって」

「あなた、言葉遣いが……」

「あぁ、すまないライラ」


 サイモンは七色に輝く不思議な銀色の瞳を愛しい妻へと向けた。

 妻であるライラは、ピンク色の髪にアメジストの瞳、細身で巨乳と、当て馬男爵令嬢か聖女のような属性を持った見た目をしていたが、どちらでもない。

 善良で優しく、賢い女性である。

 魔法が使えるので魔女属性もあるライラは、夫に向かって優しい視線を投げた。

 慈しみの眼差しは聖母のようである。


 私のお母さまであってお父さまのお母さまではないのに、とアイーダが思う瞬間だ。

 夫婦仲が良いので何も言わないが、母の愛を巡っては、父とアイーダはライバル関係にあった。


 だからといって、アイーダと父の仲が悪いわけではない。

 親子関係というものは難しいものなのである。


「しかもジュリアスの息子には、結婚する前から愛人がいるそうではないか」


 ジュリアスの息子ことナルシス第三王子には、男爵令嬢の愛人がいる。

 愛人のミーシャ・ワイズ男爵令嬢は、ピンク色の髪にアメジスト色の瞳、細身で巨乳かつ身長低めと当て馬の男爵令嬢を絵に描いたような人物だ。

 この異世界は倫理観が厳しいため愛人枠に収まっているが、世界が違えば婚約者に立候補してきそうなタイプの女性だった。


「そんなロクでもない男を婿にとったら、我が家を食いものにされるのは目に見えている」

「我が家の財産を減らして権力を奪われるリスクを減らす、というのも目的のようでしたものね」


 ライラはアメジストの瞳に気づかわし気な色を浮かべて言った。


「ん。お前の懸念は分かっているよ、ライラ。国王の思惑が外れたことで、アチラが何か仕掛けてくるのではないかと心配なのだろう?」

「はい」

「そこは私が上手くやるから安心しておくれ」


 サイモンは賢い妻の不安を取り除こうと、頼もしく見えるよう胸を張った。


 ロドリゲス公爵家は裕福な家だ。

 領地経営もうまくいっていて、商売もしている。

 公爵家ともなれば領地はそれなりに広い。

 広い領地の経営がうまくいっているということは、金があるということだ。

 商売も領地へ合わせるようにして手広く行っているため、金が金を生むような状態にある。

 しかもサイモンは王家の血筋を濃く引くうえに、聖なるものであるという噂の七色を髪と瞳に持っている。


 ロドリゲス公爵家の力を王家が危険視するのも納得できると、アイーダは思った。


「アイーダ。お前も心配するな。この父が全て上手くやってやる。カリアスとの婚約も、父君であるテオバルト伯爵と話し合って適切に処理しておく。お前は何も心配せず、カリアスとの仲を深める算段でもしておけ。よろしく頼んだぞ、エドワルド」

「はい、旦那さま」


 側に控えていた見習い執事のエドワルドは、主人の言葉に頭を下げた。


(恋愛のことをエドワルドに手配させるなんて、心配しかないんですけど)


 そう思ったアイーダは、大きな目をすがめて父とエドワルドの姿を見比べていた。

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