バナナは若干緑が一番うまい

きっとね!

バナナは若干緑が一番うまい

それは突然だった


「優しさの本質って何だと思う?」


(突然なんだこいつ)

放課後17時、帰宅部の俺たちはいつもの道をいつものペースで歩いていた

5秒前まで好きなバナナの特徴とかいう、どうでもいいことに花を咲かせていたはずなのに


「・・・その人に喜んでほしいとか?」

俺は適当にそう答えた


「違う。それはあくまで相手に対して願っていることだ。自分から人に優しくあろうとするとき何を考えてるのか、だ」


「まあ、普通に助けたい、、、とか?」


「・・・上辺だな」


「別にいいじゃん、てかそれが普通だろ」


「普通、、、か、俺はさ昔から人の目が怖くてさ、自分でいることが怖かったんだよ」


(嘘だろ、、、)

突然の告白、こいつとは昔からの友達で、あらかた性格や何を考えているかはわかっているつもりだった。だからこそ、こんな言葉が出てくることに驚きだった

性格的に明るくあまり悩みなんてないような奴だし、人間関係も卒なくこなす。俺からしたら完全無欠な友達だ


「そんなこと考えていたのかよ、ちょっと驚き」


「他人に対して良く見てもらいたいから、こうしたら喜ぶんだろうなーとか考えてた。それが嫌だった。」


「やらない善よりやる偽善、っていうじゃん?だからいいと思うけどな。てかさっきの本質ってこれのこと?」


「いや、これよりもっと深いところのやつだ」


「?」


「俺はそれがだと思ってる」


「恐怖心?怖いから人に優しくするってこと?」


「そう、恐怖から優しさは生まれてくると思っている。好かれたい相手に嫌われたくない、嫌いな人に好かれたくない、そういう恐怖心が防衛本能のために人に対して優しくしようとする、って俺は考えている」


「少しわかる気がする、だけど完全に誰からも好かれるってことは絶対にないからもっと気楽にしてもいいと思うけどな」


「それができたら悩みなんてないさ、何もしてないのに勝手に嫌われたり文句を言われたり、そういうことが嫌なんだよ。恐怖心が優しさの支えになっているんだよ」


「・・・なんか捻くれてんな」


「うるさい」


「でもそんなこと考えていたのは初めて知った、お前は完ぺきな人間って思ってたからさ。逆に人間味出てきて好きになったよ、ハグでもしようか?」


「ちょっとキモイ」  


「じょーだんじょうだん」

完璧だと思っていた友達が心のもやを吐露してくれたことが、ハグしたいくらいうれしかった。


「んーー!なんかどうでも良くなってきたかも」

友達にこんなことを話したからなのか、はたまたただ疲れただけなのかはわからないが、背伸びをして何かをリセットしているようだった

すると、鞄の中から突然バナナを取り出した


「これ、食べる?」

差し出されたバナナは若干薄緑色で、熟れている真っ最中だった


「なんでバナナなんかバッグの中に入れてんだよ、しかも少し緑っぽくないか?、、、まあたべるけど」


「バナナは熟れ始めの時期が一番うまいからな!」


「バナナが一番好きなんだっけ?俺はフルーツの中だとパイナップルが一番好きなんだよねー」


「パイナップルか、らしいね」


「なにがだよ」

笑って返事をした。何がらしいのか分からないが、その言葉は純粋な気がした


「なんでも、それでさ今度パイナップル食べようよ!特段甘いやつ!」


気づけばいつもの調子に戻っているこいつは、不思議と満足そうだった




もにゅ


若干苦さが舌に残るバナナはいつもよりおいしく感じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バナナは若干緑が一番うまい きっとね! @Nagetto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画