第4話 折角なので

「…………はぁ」



 それから、暫くして。

 もうすっかり暗くなった空の下を、溜め息と共に1人歩いていく。この煌びやかな夜に似つかわしくない、暗鬱な溜め息と共に。


 そっと、顔を上げ辺りを見渡す。すると、そこにはイルミネーションに負けないくらいの明るい笑顔が溢れんばかりに広がって……うん、なんて素敵な光景。なんて美しいのだろう。そんな素晴らしき世界の中で、私はなんて――



「――あれ、ひょっとして先輩っすか?」


「…………へっ?」


 卒爾、後方から届いた声。どこかで――いや、ほぼ毎日のように聞いている馴染みの声。だけど……正直、今は答えたくない。と言うか、この顔を見せたくない。だけど――



「……改めてだけど、今日はありがとう。本当に助かったわ、戸波となみくん」


 そう、振り返り告げる。仮にここで無視に近い応対をしたとて、彼なら悪く思わないでいてくれると思う。でも……まさに今日、恩がある身でそれは流石にどうかとも思うから。

 ……まあ、お世辞にも明るい応対ものとは言えないだろうけど。ともあれ、そんな私に対し――


「はい、お安い御用です!」


 そう、朗らかに答える戸波くん。そんな彼の笑顔に、どうしてかホッと安堵を覚える自分がいて。




「ところで、どうしたんすか先輩? 今日は、ご友人とお食事だったはずじゃ……」

「……うっ」


 そう、少し首を傾げ尋ねる戸波くん。……そう、彼にはそう告げていた。今更ながら、嘘を吐いたことを後悔する羽目に……まあ、食事自体は嘘じゃないんだけど。ただ、素直に恋人……まあ、今や元恋人だけど……ともあれ、素直に恋人と食事デートと言っておけば、今の私の状況を察してくれたかもしれないのに――


 でも、今日は聖夜――友人と言っても、大抵の人は察しそうなものだけど……まあ、そこは彼。人を疑うことを知らない彼だから、そのまま信じてしまうわけで……まあ、察してもらおうなんてのがそもそも甘えだとは思うけども。ともあれ、終わったことは仕方がない。なので――


「……ええ、その予定だったのだけど……突然、急用が出来てしまったらしくて。なんでも、お父さまが急に病気になったとか……」

「ええっ!? ……確かに、それは一大事……うん、流石に仕方がないですよね」

「……ええ、流石にね」


 そう、とにかく誤魔化す。……うん、我ながら何ともお粗末だとは思うけども……でも、そこは彼。こんな拙い嘘でも、疑うことなく信じてくれる。そして、どこの誰かも知らない人の心配まで……ほんと、良い人にもほどが――


「…………あ」

「……? どうかしました? 先輩」


 ふと、声を洩らす。……そういえば、キャンセルするの忘れてた。まあ、今から行っても十分間に合うのだけど……でも、こんな気分で独りで行っても味なんてしないだろう。なので、お店の人や食材には申し訳ないけれど、ここはキャンセ……いや、でも折角なので――



「……ねえ、戸波くん。この後、なにか予定はあるかしら?」





 

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