悪魔の魂買いました。

@sachiyo0813

第1話 契約は突然に

「いらないっっ!!」


高見沢京子―17歳現役女子高生は目の前に差し出されたいかにもファンタジー世界に出てくる魔導書などに使われていそうな厚手で上質な羊皮紙をキレッキレの手刀で叩き落とした。


「あああぁぁ~!!やめて!!これしかないのっ!!」


京子の部屋に深夜突然に現れた男は大慌てで叩き落とされた契約書を床から拾い上げる。

フーッフーッと息を吹き掛けてついた埃を落とすが京子の手刀で付いた皴は伸ばしても消えない。


「あーっ!もうっ!!これ1枚しかないの!!再発行無理なの!!酷いよ京子ちゃん!!俺の命がかかってるのにっ!!」


男は契約書を大事に抱えて涙目で訴えてくる。


「この悪魔って。。。。悪魔に言われたくないわよ。」


そう言って京子はギロリと男―悪魔を睨んだ。


そう、そうなのだ。

男は悪魔。本物の悪魔。

例え話でも何でもない。


人間の容姿にとてもよく似てはいるが、背中には夜の闇を思わせる黒く艶のある大きな翼。

翼と同じ色をした質の良い前髪が少しかかる瞳は高位悪魔の特徴である黄金色だ。

その下には高く美しい鼻と唇。

耳は悪魔らしく尖っているが、人間を魅了するためなのか恐ろしく整った顔立ちをしている。


彼はルーカス・ロンバルディ公爵。

魔界序列第4位の高位の大悪魔貴族だ。


さて、何故そんな大物悪魔が人間の小娘の前で情けない姿を晒しているのか?


それは・・・・。


「私人並みに欲はあるけど悪魔の魂を買ってまで叶えたい事なんてないんだよね。

だから、あんたの魂は買わない。契約なんてしない。」


京子は本心からそう言った。


でもルーカスは諦めない。


「ほんとにほんとにお願いしますっ!!俺契約してもらわないと殺されちゃうんですっ!!魔王様に処刑されちゃうんですっ!!」


土下座で必死に頼み込む。

大悪魔の威厳も気品もあったもんじゃない。


「はぁ。。。。第一、自分が悪いんでしょ?魔王の側室に手を出したのがバレて怒りを買って死刑って。。。。」


そう、ルーカスは大の女好き。

大悪魔でルックスは抜群。

魔界でプレイボーイで名を馳せていた。

だが今回はまずかった。

よりによって魔王の側室に手を出してしまったのだ。

魔王を大激怒させて処刑が決定してしまったのだ。

そしてその処刑を免れるために今こうやって京子に契約を持ち掛けている。


「俺まだ死にたくないのっ!!なんなら1000年くらい生きるからねっ!!お願いしますっ!!俺の魂を買って下さいっ!!

神様、仏様、京子様ぁ~~~っ!!」


悪魔と言ったり神様と言ったり仏様と言ったり、忙しい事この上ない。


さて、ルーカスの処刑と京子との契約、一体何の関わりがあるのか?


それは人間にはあまり知られていない悪魔独特の願いの叶え方だ。

人間は願いを叶える時に悪魔に魂を売ると言うが、悪魔はその逆だ。


人間に魂を売るのだ。


そしてその人間の生が尽きるまで使い魔となる。


人間にこの事があまり知られてないのは当然の事。

何故なら人間に魂を売る悪魔なんて滅多にいないからだ。

その滅多にないことが今起きているのだ。


悪魔でもどうにもならない願いを叶えられるが人間の使い魔になるなんて悪魔にとっては恥でしかない。


なのに京子に魂を売って処刑を免れると言う願いを叶えるためにルーカスは土下座をしている。

プライドなんてそっちのけである。


「もうさぁ~。腹括って処刑されちゃいなよ。」


「やだやだやだーーーーー!!」


今度は京子の足にしがみ付いてくる。


「ちょっとっ!!やめてよっ!!触らないでっ!!第一何で私なのよっ!!人間なんて巨万といるじゃないっ!!」


しがみ付くルーカスをひっぺがそうとする。


「京子ちゃんじゃないと駄目なのっ!!京子ちゃんしかいないのっ!!決められた唯一の人間としか契約出来ないのっ!!」


「何なのよそれっ!!何て迷惑な話っ!!」


しがみ付くルーカスの頭を押し退ける。


ルーカスが言う通り悪魔が魂を売る時に契約する人間は誰でも言い訳ではない。

その悪魔が産まれた時から決められている。

決められた人間が死ぬとまた新たな人間が選ばれてその都度1人しか契約出来る人間がいないのだ。

つまり京子に断られたらルーカスはもう逃げ道がないのだ。


本当にコイツが大悪魔なのか耳を疑いたくなる話である。


しかし京子もただの女子高生とは思えないほど冷静に対応している。


普通ならこの非現実的な状況に置かれてパニックになるか、呆けるか。

欲深ければホイホイと契約してルーカスの命をを救い、生涯ルーカスをこき使うだろうに。


そう、京子も普通ではなかった。


京子の母親は穏やかで優しい人柄だが、面食いの上に人が良すぎて騙されやすい。

顔の良い男に騙されて都合よく使われきた母親のせいで苦労して育った。


過去色々あったが現在は借金などもなく平和に暮らしているがいつまた母親が男に騙されるかわからない。

その上、面食いの母親が選んだ父親によく似た美貌の持ち主のため鬱陶しいほど男が寄って来てしまうために男にすり寄られるのは苦手だ。


そのため

顔の良い男とうまい話には気を付けろっ!!

判子は押すなっ!!サインはするなっ!!

が京子の教訓なのである。


と言う訳で顔の良いルーカスが持ってきたうまい契約話は京子にとって天敵と言う事だ。



足にしがみ付くルーカスから壁の時計に視線を移すと深夜2時をとっくに過ぎていた。


明日はテスト。

テスト勉強中に突如としてルーカスが現れてこんなやりとりをしている間に大事な勉強時間をだいぶ奪われていた。


急に怒りがこみ上げてきてルーカスの頭を掴んで窓向かった。


「痛いっ!痛いっ!禿げちゃうっ!やめてって!!」


窓を開けて嘆くルーカスを放り出す。


そして一言。


「出てけっっ!!」


「はっ、はい~~~~~っ!!」


大悪魔のルーカスもビビるほどの鬼の形相。


ルーカスもさすがにこれ以上はまずいと思いしぶしぶ翼を広げた。

初夏の心地よい夜風をうけて大きな翼を羽ばたかせる。

月を背中に絵画のような美しさ。

先程までとは別人の悪魔らしさ。


だがやはり飽きらめる訳にはいかないから必死に叫ぶ。


「とりあえず今日はこれで帰るけど絶対契約してもらうからねっ!!絶対だからねっ!!」


「二度と来るなっっ!!」


こうして2人の出会いは幕を閉じた。














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