第5話
私は
兄に対して、妹として、家族としてじゃない。
だというのに、悪い虫が付いた。
許せない。
こんなことならもっと趣味の悪い、胸元にデカデカと英語の書いてあるパーカーでも着せておけばよかったと思う。
私は知ってる。
『ローマの休日』を見てからずっと「こんなに綺麗な人がいるのか」と頻りに言ってた。それから出演作を順番に全部レンタルしてきて、どハマりしていたことも、知ってる。だから私のライバルはずっとオードリー・ヘップバーンだった。
それなのに
どんどん腹が立ってきた。オードリー・ヘップバーンなら、どっちかって言ったら、私だろ。そりゃオードリー・ヘップバーンに似てるなんて言ったら思い上がりだけど、絶対私の方がまつ毛だって長いし、メイクするときはアン王女を意識してるし、
「
『たいようのいえ』に預けられていた頃の私に、初めて声をかけてくれた時と同じような声だった。
優しくて、包み込んでくれるような声だった。
私はこの声が大好きだった。
私は中学校に入って、施設で働いていたお母さんの養子になった。そうして間もなく、お母さんはお父さんと再婚することになって、私はハカセと一緒に暮らすようになった。
私はハカセのことが大好きだったのに、
「さっきはごめんよ。急に厳しい言い方をしちゃって」
違う。
怒ったのは私の都合だ。
でも私のために、自分が悪者になってくれる。
こんなことを言わせたいわけじゃなくて、涙が出てくる。顔を押し付けた枕のシーツに、ファンデーションとマスカラの色が
「私、
言ってしまった。
一番、言いたくなかったのに。
「私、
それでも言ってしまう。
「そうだね」
「僕もね、やっぱりハカセになりたいって思ったんだ。
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