第3話
頭は昔から良かったけどそれだけで、最近の
そんな
もう十年近く通い続けている
「もうすぐ院生になるし、できることなら本当に『ハカセ』になれたらいいけどね。そしたらみんなにも、ちゃんとハカセって名乗れるのになあ。」
手元の本から目を離さず、ぼんやりした口調でそう笑っていたことを思い出す。理学部で有機化学について勉強している大樹は、博士課程に進みたいと以前から話していた。その場合、院の卒業まではまだまだ時間がかかる。修士で二年、博士後期課程なら最短であと三年。少なくとも五年は大学にいることになる。
「
こともなげに続ける。
この人はそういう人だ。自分のやりたいことと、近しい人間の希望や期待を
毎週末、『たいようのいえ』のボランティアに行くために、本当は入りたかった高校の化学部に入らなかったのも知ってる。学部の友人に、アカペラサークルへ誘われていたのに、それを断ったのも知ってる。最近は就活情報サイトをブックマークしていることも、知ってる。施設の子たちが楽しみにしてるから、と言うのと同じように、
「フーコって、ゲームのキャラクターみたいな名前だよね。どうぶつの森に、そんなキャラいなかったっけ。」
私はそんな大樹がどうしようもなく面白くなくて、そんなことを言った。
古臭い名前だよね、なんて、少し
「
怒ってはいない、けれど固い声だった。
何度も聞いたことがある。
兄として、年長者として、私が正しい方向に進んでほしいと願う声だった。
この人にとって私は、怒りや不満をぶつけたりする対象ではないんだと思うと、目の奥がカッと熱くなった。
「
自分が情けなくて、恥ずかしくて、大声を出して、リビングから出て行った。本当はこのあと、
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