第11話 ガイアドラゴン

 荒野を歩いている。ゴツゴツした地面が続き、流石に荷馬車は進めない。

 冒険者ギルドで一悶着あった。だけど事情を話したらすぐに許可が下りた。何でも未成年の冒険者登録は前代未聞だがギルドマスターの許可が下りたようだった。

 セラは見習い冒険者として位の低い状態だが同行が許可されていた。

 セラはというとカッコいいからと巨大な斧を担いでいる。華奢な身体でどうして持ち上げられているのだろうか。嬉しそうに軽快にスキップしながら後ろを着いて来ている。あれからだいぶ心を開いてくれたようだ。


「セラはそんな大きな斧でほんとうに大丈夫かい?」

「はい、きっと使いこなせます。その、ありがとうございます」

「いや、気にしなくていいよ」

「えぇと、今回の目的は狂暴化したガイアドラゴンの退治みたいですね。ほんとうに私たちでできるのでしょうか?」

「わからない。けど、依頼を受ける人たちがいないからしょうがないよね」

「がいあどらごん?」


 セラは首をかしげている。ミリィが説明し始めた。


「ガイアドラゴン。土属性のドラゴンです。ドラゴンは魔力のこもったものを回収する習性があります。近くにドワーフの鍛冶屋がありまして。魔石を使った魔剣の錬成研究が行われています。その研究所が連日襲われているのでドラゴンを撃退してほしいというのが今回の依頼です」

「倒す必要はないんだよ」

「そうなんですね」


 正直なところあまり受けたくはなかった。だけど報奨金がつり上がっていたこともあり受けざるを得なかったのだ。


 荒れた荒野を進むと盛り上がった広大な丘が見える。直径二百メートルくらいはあるだろうか。巨大な丘にぽっかりと大穴が開いている。穴自体は登れるほどに浅く、南側が削れて道のようになっているので問題ではない。問題はその直径二百メートルの大穴に五十メートルほどの巨大な龍がいることだった。

 全身が岩のような肌に覆われた巨大な龍。まるで、岩を龍にしたみたいだった。翼はなく、トカゲのような見た目をしてるが、サイのように立派な角があった。そして、背中には一本の大木が生えており、鳥類の魔獣たちが寝床にしていた。


「思っていたよりも大きいな」

「ほんとうに撃退できるのですかね?」

「わからない」

「わ~! 大きいです!」


 セラは初めての仕事に興奮気味だ。連れてくるべきではなかった。


「大きな一撃が必要になるな」

「それでしたら私に任せてください」


 ミリィが腕を鳴らしている。確かにいまのミリィなら居力な一撃を与えることが出来るだろう。


「よし、決定打はミリィに任せるよ。俺が囮を引き受けるから頼んだよ」

「わかりました」

「セラは?」

「セラは見学していてくれないか?」

「いや! 私もお役に立ちたいもん!」


 セラが癇癪を起した。やはり、奴隷だったこともあり年齢よりも精神面に幼い部分があるのかもしれない。


「それじゃあ、ガイアドラゴンを攻撃すると背中の樹木から魔獣が襲ってくるかもしれないから、その魔獣を追い払うのをお願いしてもいいかな?」

「うん! セラ、がんばる!」


 正直、セラの動向も観察しながら戦わなければいけない。引き際は早めに線引いた方がよさそうだ。

 食糧などが入った荷物を下ろして身を軽くする。

 そして、ストレッチをして身体を馴染ませる。全身の筋肉が収縮と弛緩をして最高の状態になる。


「俺が逃げろと言ったら絶対に逃げるんだからね?」

「わかりました」

「うん、わかった!」


 俺は眠っているガイアドラゴンの前に立ち、レガリアを使って聖剣を召喚する。


(聖剣よ! 応えてくれ!)


 聖剣の刃が光りだし、まばゆい輝きを放ちだした。俺は聖剣を構えて一呼吸で思い切り振り抜いた。

 しかし、聖剣はガイアドラゴンを断ち斬ることは出来なかった。


 (やっぱり、まだ俺には扱いきれないか……)


 聖剣もといレガリアが俺を認めていないから聖剣の本来の力を引き出しきれていない。まだ、力が不足しているみたいだった。

 ガイアドラゴンが地響きを鳴らしながら巨大な体躯を持ち上げ始めた。


「始まるぞ!」

「「はい!」」


 ガイアドラゴンは耳をつんざく咆哮をあげた。ホワイトノイズで周りの音がよく聞こえない。

 ガイアドラゴンの背中の巨大な樹木からは無数の鳥型の魔獣が飛び立ち始めている。俺は敵視を得るためにガイアドラゴンの目の前に立ちはだかり剣を構える。


「こいよ!」


 ガイアドラゴンは地面を踏み抜いた。俺はイヤな予感がしてその場を大きく後退した。瞬間、さっきいた場所に土で出来た大きな棘が地面から突き出していた。もしも、避けなかったらい知能と、高い生命力を持つとされている。存在そのものが伝説とされている生き物だ。

 ドラゴンを退治できたのならそれは英雄に匹敵する。それをいま、俺たちは求められているのだ。

 ガイアドラゴンの胸が大きく膨らんだ。何かが来る。


「ブレスが来るぞ! よけろ!」

「私が盾を作ります。みんなこちらへ」


 俺たちは急いでミリィのもとへ急ぐ。ミリィは詠唱をすると巨大な土の壁が出来た。ミリィが盾を作った時だった。強烈な暴風が襲った。

 空気を裂くように風が土壁を削っていく。


「何とか持たせます!」


 ミリィがドラゴンノブレスを防いで見せた。卓越した魔法使いでなければ成し遂げることは出来ないだろう。ミリィが魔法を解き、俺はガイアドラゴンのもとに走り出した。周囲には巨大な鳥型の魔獣が飛んでいる。


「邪魔はさせない!」


 セラが空中に跳躍すると巨大な斧で魔獣を切り裂き、そのまま足場にして次の魔獣へと跳んでいく。その身のこなしに素直に驚いた。

 俺は依然として健在なガイアドラゴンに向かって聖剣を構える。


 (お願いだ! 聖剣よ! 応えてくれ!)


 聖剣は光刃こそ纏うが出力が圧倒的に低い。


 (伝説では山をも斬ると言われているレガリアなのにどうしてなんだ!)


 考えても仕方がない。俺は【加速】と【身体狂化】のレガリアを使いガイアドラゴンに向かって跳んだ。音速を超える一撃をガイアドラゴンの頭に叩き込んだ。そのまま背中の樹木を足場に跳躍して周囲の壁へ飛び移る。壁を走りながらガイアドラゴンの様子を見る。いまの一撃はだいぶ効いているみたいだ。

 ミリィも魔法による攻撃でセラの援護をしている。

 俺は壁から跳躍して、再度ガイアドラゴンの顔に攻撃を入れようとした時だった。


「っ!」

「「リオス!」」


 ガイアドラゴンは顔をあげて俺の攻撃を避けると、そのまま顎で俺を地面にたたきつけた。


 俺は朦朧とした意識の中で地面のざらついた感覚だけが鮮明に伝わった。

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