第10話 鳥かごの向こう側
セラと共に街並みを散策する。不意にセラの足が止まった。それはおしゃれなブティックだった。俺とミリィは見合わせる。
「そういえば、セラが着るための服がなかったよね?」
「そうですね。私のでは少し大きいですからね」
「そんな! 大丈夫です!」
セラはびくりと身震いをして俺たちを見つめていた。まるで善意を怖がるように。
「せっかく可愛いんだからいい服を着てほしいな」
「安心してください。リオスは成金冒険者ですから!」
「それは通り名であって本当に成金なわけではないんだからね?」
「そうなんですか?」
「そうだよ。俺も基本的には冒険者としての収入しかないんだからね」
「セラは何でも大丈夫ですから」
「そういわないで自分で決めようね」
「私も一緒に見ますから、行きましょう」
ミリィに連れられてセラはブティックに入っていく。俺はその後をついていった。ブティックの中はおしゃれな服で溢れかえっていた。可愛いが埋め尽くされた店内を見てセラの瞳に輝きが宿る。
「好きなものを持っておいで」
「ほんとうにいいのですか?」
「あぁ! 持ってきな! 人の善意を無碍にするのは良くないよ?」
「ありがとうございます!」
すたすたとお店の服を眺め始めた。ミリィが一緒に見て回っている。
店員の好意もあり、試着をさせてもらっているようだった。
試着をしたセラがやってきた。
「どうですか?」
フリルの付いた黒のシックなワンピースだった。白い髪の毛と対比になってとても似合っていた。
「うん! 凄く可愛いよ!」
「ほんとうですか?」
「ほんとうだよ! 他にも何着か好きなものを選んできな!」
「うん!」
セラは嬉しそうに服を選びに走っていった。
セラは黒が好きみたいだった。最終的に可愛らしいロングワンピースと黒のセットアップのジャケットとミニスカートとブラウスを買った。
あとはいい感じの靴をいくつかとせっかくだからと可愛らしい下着を何着かミリィと選んでいた。
「ほんとうにありがとうございます」
「気にしなくていいよ」
「ですが、どうやってお礼をしたらいいか……」
「お礼なんてしなくていいんだよ。好きでやっているんだから」
(問題はこの子がどうやって自活していくかだよな……)
奴隷はただ解放するだけでは救ったことにはならない。ちゃんと自活できるようにしてあげなければいけないから。
セラがまだ十五歳だという事実にも俺は頭を抱えていた。まだ成人ではないからだ。
考え事をしていたからだろうか。持っていた荷物をひったくられてしまった。
「っ!」
相手は魔法で身体強化をしているようだった。建物の壁を飛び、立体って気に逃げ始めた。
(ちょっと厄介だな)
俺はレガリアを使って【身体狂化】と【加速】をすることが出来る。魔法の比じゃない。追いかけようとした瞬間。俺よりも先にセラが動いていた。
セラはひったくりと同じように壁を蹴って屋根に登り、後を追っている。相手は魔法で強化しているのにセラは素の状態で並んでいる。
(はやいな)
俺は後を追うように跳躍して屋根に登った。ミリィも浮遊魔法で浮かび上がり後をついてくる。
屋根を走りセラの後を追う。
ひったくりはしびれを切らしたのか白昼堂々攻撃魔法を放ってきた。
「セラ! 危ない!」
しかし、セラに当たることはなかった。身体を猫のようにひるがえして躱すと、不安定な屋根の上をステップして躱し、ひったくりを蹴り飛ばした。
吹き飛んだひったくりはそのまま地面に落ちようとしたがセラが掴んで何とか落下せずに済んだ。
「わ、わるかった! 命だけは勘弁してくれ!」
「わかりました。セラは人を殺しません。でも次はありません」
セラは男を片手で軽々と引っ張り上げて屋根に乗せた。そして、ひったくられた荷物を回収して猫のように軽やかに地面に着地していった。
俺とミリィは彼女の後を追い地上に降りた。
「大丈夫だったか?」
「はい、セラは戦闘に慣れていますから」
「そっか、そうだったね。でも無事でよかったよ」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ帰ろうか?」
「はい」
俺達はセラを連れて家に戻った。
***
明朝。
俺とミリィにはやることがある。冒険者としての仕事だ。生きていくためには金が必要だからしょうがない。
「坊ちゃん、ミリィさん。気を付けていってらっしゃいませ」
「行ってくるよ」
「行ってきます」
ドアを開けようとした時だった。
「待って! セラも連れて行って!」
セラは黒のワンピースを着てロングブーツを履いていた。
「これから魔物討伐に行かないといけないんだ。お出かけとはわけが違うんだよ?」
「わかっています。セラは勉強したいんです。いつまでも施されてばかりではダメだから。自活できるようになりたいの」
セラの目は決意に染まっていた。ここで彼女の決意に水を差すのは間違えている気がした。俺はミリィと見遣りセラに向き直った。
「わかった。でもギルドのお姉さんに相談してからだからね?」
「わかりました。セラ、邪魔はしませんから」
「うん、それじゃあ行こうか?」
「はい!」
俺とミリィはセラを連れてギルドへと向かった。
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