第09話 セラ・セミラミス
ミリィによって亜人の少女は介抱された。
ミリィに頼んで身体の汚れを落としてあげて、麻布のぼろきれなんかよりもよっぽど上等な服を着させてあげた。
袖から除く傷跡が痛々しい。これも亜人の少女が生きるために乗り越えてきた証
俺は亜人の少女のために物置にしていた部屋を解放した。
少しほこり臭いが、換気が終わればマシになるだろう。
ベッドに眠る亜人の少女は小さく胸を上下している。俺は隣に椅子を持ってきて彼女が目覚めるのを待っていた。
「目覚めませんね」
「大丈夫だよ。きっと……」
昼になった頃合いだろうか。外がにぎわってきた。それと同時に、亜人の少女がゆっくりとまぶたを広げた。
「ん~。っ!」
亜人の少女ははっとして周りを見渡し始めた。そして俺とミリィと目が合うと後ずさりをしながら毛布で体を隠した。
亜人の少女は目を見開いて驚いていてどうすればいいのかわからないみたいだ。
ネコミミを後ろにとんがらせて警戒している。
「こんにちは。お嬢さん?」
「もう大丈夫ですよ?」
「…………しゃべっても怒らないですか?」
「どうして怒るんだい?」
「だって、大人の人は勝手にしゃべるなって言うから……」
「大丈夫だよ! ここはそんな人たちはいないから!」
その一言を聞いて少しだけ表情が和らいだように見える。
「えぇっと? ここはどこですか? 貴方たちは?」
亜人の少女は消え入るような声でつぶやいた。
俺とミリィは互いに見合わせると笑顔で答えた。
「ここは俺の家だよ。俺はリオス。リオス・ウル・レグリオン」
「リオス?」
「うん、そうだよ。リオス」
ミリィが続く。
「私はミリィ。ミリィ・ペイルスター。リオスの仲間ですよ」
「ミリィ?」
「うん! もう大丈夫だよ!」
大丈夫。その一言を聞いて彼女の感情が決壊した。ため込んでいた不安や恐怖はダムが崩壊したかのように涙となって流れ落ちていく。
俺とミリィは優しく彼女を抱きしめた。彼女が泣き止むまで抱きしめ続けた。
「あの? 私は貴方たちに買われたのですよね?」
「違うよ、君はもう誰にも買われたりしない。自由だよ!」
「そうですよ。もう奴隷じゃないのですよ?」
少女は自分が来ている服をまじまじと見つめている。そして、年頃の女の子のように微笑みを浮かべた。しかし、目が合うとすぐにはっとして表情が死んでいく。
きっとまだ彼女の心の傷がいえないのだろう。話しかけるたびにびくついてしまっている。このまま野放しにはできないだろう。
「ねぇ? 君の名前を教えてくれるかな?」
「そうだね! それと何歳かな?」
少女はネコミミをぴくぴくとさせながら小さな声で答えた。
「セラ。セラ・セミラミスです。歳は……その……奴隷にされてからどれくらい経ったのかわからないので自分でも分からないです」
「セラ。素敵な名前だね。年齢がわからないか……そうか……」
「うん! 凄く可愛い名前だよ!」
ミリィはセラの手を握り上下に振った。セラはどう反応していいのかわからなくて目をぱちくりとしている。
するとお腹が鳴る音がした。
俺はセラを見遣る。セラは怯えるようにこちらを見つめていた。
「ごめんなさい!」
「どうして謝るんだい? 謝らなくていいんだよ?」
「でも、大人の人たちはお腹を鳴らすと怒るから……」
「もう、そんな怖い人たちはいないんだよ!」
「もう、怒られたりしないの?」
「そうだね。意味もなく怒ったりはしないよ」
セラは安堵している。ようやく俺も安心出来た気がする。
「そろそろお昼だからご飯でも食べようか?」
「いいのですか?」
「当たり前だろ? もう、怖いことも、辛いこともないんだよ! 安心して!」
「そうですよ! リオスは優しいのですよ! なんたって王子様なんですから!」
「王子様?」
セラは目をキラキラと輝かせていた。その姿がとても可愛らしくて、俺はその期待を裏切りたくないと思った。
「そうだよ、レグリオン王国の第三王子、リオス・ウル・レグリオンだよ」
「私は王子様のお手伝いをしています!」
ミリィは得意げに胸を張った。俺は不思議と胸が温かくなった。
「すごいです! カッコいいです!」
「そうか。ありがとう!」
俺はセラに手を伸ばした。一瞬びくついたが、俺はそのまま頭を撫でた。
セラは嬉しそうに目を細めた。そんな姿が愛おしいと思った。
「よし、セバスチャンが待ってるからご飯食べような」
「は、はい」
「行きましょう、セラ!」
ミリィはお姉さんのようにセラを引っ張っていってしまった。俺も彼女たちの後を追い、リビングに向かった。
「おや、可愛らしいお嬢様が目覚められましたか」
「この人も怖くない人?」
「そうだよ! セバスチャンって言って。俺の大事な家族みたいな人だよ!」
「ほほほ! 家族だなんて身に余るお言葉を頂けるなんて嬉しいですよ」
「セバスチャン?」
「はい、わたくしは坊ちゃんのお世話をしております」
セバスチャンが料理を運んでくる。
消化の良いスープ系の料理と柔らかい出来立てのパンだ。
「いい匂い!」
「どうぞ遠慮なくお召し上がりください」
セラは恐る恐るスプーンを口に運んだ。そして目の中にお星さまを作りながら耳をぴくぴくとさせている。
「おいしい!」
「お気に召していただけたようで何よりです」
セラはゆっくりと嚥下して嬉しそうに微笑んだ。その姿を見てみんなの表情が明るくなる。彼女が少しずつ本来享受すべき幸せに近づいているようでうれしかった。
「坊ちゃん。今日はいかがなさいますか?」
セバスチャンが目配せをしてセラを見遣る。俺はうなずいて笑顔でセラに言った。
「セラ? 一緒にお出かけしようか?」
セラは不思議そうに首をかしげていた。
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