第05話 ミリィの気持ち

 夜も更け、星が空を彩る頃。

 俺はミリィに開いている部屋を貸し与えた。最初こそ遠慮していたが、空いているから使い道がないことを告げると、了承してくれた。

 装備を脱いで部屋着でベッドにくつろいでいた時だった。

 ドアがノックされてミリィが部屋に入ってきた。

 髪を下ろして薄手の部屋着の姿をしていた。


「どうしたんだ?」

「いえ……」


 とくに何も言わずにミリィが俺のベッドに歩み寄る。

 そして、俺を押し倒して馬乗りになった。ミリィの栗毛の長髪が優しく撫でる。柔らかな女の子の匂いが鼻をくすぐった。


「ミリィ?」

「私はリオスにもらってばかりです。何もお返しできないのはフェアじゃない」


 ミリィは俺の手を取り自分の胸に当てる。決して小さくはない胸のふくらみが手の中にしっくりと納まる。

 そのままミリィは顔を近づけて唇を交わした。柔らかな唇に意識がはじけるような気がした。


「私、頑張りますから。だから、私を傍においてください」


 俺は彼女の胸を揉んだ。程よくハリがあって柔らかい。ミリィは顔を真っ赤にして声を押し殺している。いまの彼女はとても可愛らしい。思考が桃色に染められる気がした。でも、このままではいけない気がした。


「ねぇ? ミリィ? こういうのはちゃんと線引きをしないかい?」

「私ではダメでしょうか?」

「そうじゃないよ。でも、こんなのは間違えていると思うんだ」

「でも、いまの私にできることなんてこんなことくらいしかないの」

「あるさ。俺と一緒に戦ってくれ」

「そんなことでいいのですか?」

「うん、それでいいよ」


 俺は彼女の肩に手を置いて身体を起こした。そして、隣に座らせる。


「えへへ、私、考え過ぎていたみたいですね」

「もっとフラットに行こうね」

「はい」


 ミリィは顔を桃色に染めながら微笑んでいる。そんな姿が可愛らしくて俺は彼女の頭を優しく撫でた。ホッとしたのか目を潤ませている。


「優しいんですね」

「そんなことないよ」

「ちゃんと胸を揉んでいましたもんね」

「しょうがないだろ! 俺だって男なんだから!」

「でも踏みとどまってくれたのですね。優しいです」

「好きに言ってくれ」

「私、可愛いですか?」

「うん、可愛いよ」

「えへへ。嬉しいなぁ」


 ミリィは俺の隣に寝転んだ。ミリィが俺を見つめてくる。俺はたまらず声をあげた。


「今度はどうしたんだい?」

「一緒に寝てもいいですか?」

「さっきの後だから落ち着かないんだけど?」

「少しはドキドキしてくれていたんですね?」

「そりゃ、まぁ、ね?」

「えへへ! よかったです!」


 やはりミリィは隣で寝ることを諦めないようだった。俺はあきらめて目を瞑る。


「私、隣町で生まれたんです。それはもうとても元気な子で物心つく前から魔法が使えたみたいです」

「そうだったんだね」

「私にとって魔法って考えるものではなくて感じるものでした。それくらい当たり前なものでした」

「それは凄いな」

「だけど、私には魔力量が全くなかった……」

「悲しいね」

「でも、リオスが私に力をくれました。私は貴方のおかげで輝けるの」

「それは君が相応しいと思ったからで誰にでも手を差し出したわけじゃないよ」

「それでも私を選んでくれました。私すごくうれしいんです」

「君を選んでよかったよ」

「ありがとうございます。頑張りますからね」


 ミリィの優し気な声音が眠気を誘う。そして、俺はいつの間にか眠りについていた。


  ***


 日に当てられた優しいにおいがする。サラサラとした感覚が頬を撫でている。俺は優しく日に照らされるように目が覚めた。


「お、おはようございます……」

「お、おう」


 完全にミリィを後ろから抱きしめていた。手が彼女の胸を鷲掴みにしている。柔らかくて心地いい……。


「なんか悪かったな」

「い、いえ。もう少しだけこのままでいてくれますか?」

「え?」


 俺は素っ頓狂な声を出してしまった。背中からではミリィがどんな顔をしているのかわからない。

 俺は手の行き場に困りとりあえず後ろから抱きしめ直した。


「不思議とこうしてもらうと安心するんです」

「そうなのか?」

「はい。昔、お父さんが良くしてくれました」

「俺はお父さんか何かか?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」

「冗談だよ。頑張ったんだな」

「はい。頑張りました」

「えらいぞ、ミリィ」

「ありがとうございます」


 俺の腕にミリィの手が絡みついてくる。まるで縋るように。

 俺は片手でサラサラとしたミリィの頭を撫でた。


「私、頑張りますから。見捨てないでください」

「大丈夫だよ。ミリィは凄い子だから。きっと俺の想像もつかないくらい成長するよ」

「リオスにそう言ってもらえるなら私はもっと頑張れます。だからちゃんと見ていてくださいね?」

「あぁ、一緒に頑張っていこうね」

「はい!」


 俺はそっとミリィを解放した。彼女は名残惜しそうにしながらも起き上がった。彼女に手を差し伸べられて俺も起き上がる。


「ご飯作りますか?」

「いや、その必要はないよ」

「え? どこか食べに行くのですか?」

「そういえば紹介していなかったね? せっかくだから紹介するよ」


 部屋を出てリビングに向かう。そこにはひげを蓄えた老齢の男がいた。

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