第03話 レガリアの力

 俺たちは冒険者ギルドに戻った。

 ミリィがかつて所属していたパーティは教会に送り治療をしてもらっている。

 俺とミリィはテーブルをはさんで座っていた。

 昼間ということもあり人はまばらだった。


「その、レガリアって何ですか?」


 ミリィは左手の薬指にぴったりとはまった指輪を眺めながら俺に尋ねている。

 俺は説明するべきか悩んだが、苦汁を飲むように話し出した。


「俺の名前はリオス・ウル・レグリオン。そう言えば俺が何者なのかわかるかな?」

「っ! 十年前に内乱で滅亡したレグリオン王国の王子様なんですか?」

「そうだね。君になら話しても大丈夫だと思ったから話しているけれど、俺はレグリオン王国の第三王子だったんだ」


 レグリオン王国。かつて栄華を極めた王国。しかし、内乱の果てに滅亡した。表面上は圧政の解放と銘打っていたが実情は違う。


「レグリオン王国にはレガリアという特別な力を持った宝石があって、その力を使い王国を繁栄させてきたんだ。でも、この力を欲した人たちが国民を焚き付けて滅亡に追いやったんだ。そして、レガリアを奪ってしまった」

「そうなんですね……」

「そのレガリアを回収するのが俺の目的なんだ」


 レガリアの大半は奪われた。それを回収しなければならない。王子として。


「レガリアは使い方を間違えると使用者を呪う。だから正しく使わないといけない。父上は立派に国を導いていた。それなのに力を欲した悪人どもにみんなを奪われた。残ったのは俺一人なんだ。だから俺がレガリアを取り戻さないといけないんだ」

「そうだったんですね。そんな大事なものを貸してくださったのですね」

「そうだね。その指輪も君に使われることを喜んでいるみたいに見えるよ」

「ありがとうございます」


 ミリィは右手で左手を包み込んだ。それは慈愛に満ちた祈りのようだった。俺はその姿を見て胸が温かくなるような気がした。


「リオスさんもレガリアの力を使っているのですか?」

「そうだね。【身体狂化】と【加速】の力を使っていたかな」


 俺は緑色の宝石に銅のネックレスと紫色の宝石に金のピアスをそれぞれ見せた。

 身体狂化。それは身体強化の上位スキルで身体に変化を与えずに強靭な力を得ることが出来る能力だ。

 加速。自身の瞬発力をあげる能力だ。


「そうだったのですね。それじゃあ私は?」

「ミリィのは魔力供給のレガリアの中でも一番強い力の【無限魔力】の力だよ」

「【無限魔力】ですか?」

「うん、レガリアの中でもグレードがある。その指輪はリングが金でしょ?」

「はい、ゴールドリングです」

「リングは銅、銀、金の順でランク付けされていてその指輪は最も強い力を付与してくれる指輪なんだ」


 金のグレードのレガリアはそう多くない。彼女に託した指輪は失ったらいけないレガリアの一つだ。


「そこで相談があるんだけど」

「は、はい」

「君にもレガリアを探すのを手伝ってほしい」

「わ、わたしですか?」

「うん、君の魔法の腕は間違いなく天性の才能だと思う。君がいればレガリア探しが進むかもしれない」

「もしも、手伝わないと言ったらどうなるのですか?」

「記憶を奪うレガリアがある。それで君はこの力を忘れてもらう」


 これからのことを考えるとむしろその方が幸せなのかもしれない。俺はミリィを見つめる。彼女はおどおどとしながらもそれでも俺を見据えて言った。


「やります! もう、飛べない鳥みたいに空を眺めるのはイヤなんです! 私はリオスさんに翼を頂きました。借りものですが、私は飛べる! だから、私にできることでしたら何でもお手伝いします!」

「ありがとう。そう言ってもらえると思っていたよ」

「はい! 私は家族を養わないといけないのでバンバン働きます!」

「それじゃあ報酬は均等割りでいいかな?」

「いいんですか?」

「もちろんだよ。みんなで戦うんだ。誰かが多いのは不平等だよ」


 途端にミリィが泣き始めてしまった。理由もわからずに俺はあたふたしてしまう。


「ごめんなさい。私、使えないからって報酬が少ししかもらえなくて。だからうれしかったんです。リオスさんとパーティが組めて本当に幸せ者です!」

「そっか、なら一緒に頑張ろうね」

「はい!」


 ミリィは太陽のように笑った。その姿に胸が跳ねた気がした。

 なんか外が騒がしいと思っていたら冒険者たちが外に向かって行く。


「キャー! 助けて!」


 視線を外に向けた時、外で悲鳴が聞こえた。俺はミリィを見遣る。彼女は首肯をしていた。俺たちは武器を持って外へ急いだ。

 外には噴水の前に少女を人質に取った女がいた。ダガーを首に突き付けながら辺りを見回している。

 女はレオタードにローブを身に纏い目元にマスクをしていて全貌がわからない。


「こいつが殺されたくなかったら金目の物を寄こしな」

「お願い、助けて!」


 周りには冒険者たちがいる。それなのに手が出せない。下手に手を出したら本当に人質の少女が死んでしまうかもしれないからだ。


「お前! いい装飾品をつけているな。金目の物を寄こしな!」


(やっぱり狙いは俺か……)


 俺は剣を納めてじりじりと女のもとに歩み寄る。

 女は切っ先を少女の首筋に当てながらいつでも殺せることを示している。

 俺は腰に手を回してダミーの宝石が入ったポーチを女にちらつかせる。


「これがあれば一生暮らしていけるだけの金になる。これで人質を解放しろ」

「ほかにもあるんじゃないのか?」

「これ以上は譲歩できない」

「ならこの女が死ぬだけだな!」


 首筋にナイフが埋まる瞬間、俺は【加速】のレガリアをもってして女のダガーを握り、【身体狂化】のレガリアでそのまま女を吹き飛ばした。

 人質の少女を確認する。大丈夫だ。傷はない。

 右手から血が流れるが今はそれどころではない。すぐに剣を抜いて構える。

 しかし、女は二つ、ポーチを持っていた。

 俺はすぐに剣を納めて、確認をする。


 (ない! レガリアの入ったポーチがない!)


「探し物はこれかな?」

「それはお前には身に余るものだ! 持っていると破滅するぞ!」

「それほど重要なものなんだね! ありがたく頂戴するよ!」

「待て!」


 俺は少女をミリィに預けて、【加速】のレガリアで追いかける。しかし、女は煙幕を放ち行方をくらませた。煙が晴れた頃には姿はなかった。


「リオスさん」

「大変なことになってしまった。取り返さないと厄災がふりまかれる」

「そんなにですか?」

「レガリアの扱いを間違えるととんでもないことが起こるんだ」


 俺は天を仰いだ。空は曇りで濁っていてどこまでもどんよりとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る